後耳介筋 Musculus auricularis posterior
後耳介筋は、頭部の外耳周囲に位置する小さな骨格筋です。解剖学的に以下の特徴を持ちます(Gray and Lewis, 2020):
解剖学的特徴
- 起始:側頭骨乳様突起の外側面(乳様筋膜)。
- 停止:耳介軟骨の後面。
- 走行:2〜3つの小さな筋束が、後方から耳介の後面に向かって前方へ放射状に配列します。
- 支配神経:顔面神経(第VII脳神経)の後耳介枝。
- 血液供給:後耳介動脈(外頸動脈の枝)。
機能と作用
- 主な作用:耳介を後上方へ牽引します。
- ヒトでは、他の耳介筋(前耳介筋、上耳介筋)と同様に退化しており、随意的に動かす能力は著しく低下しています(Standring, 2021)。
- 一部の人では、「耳を動かす」能力として残存していることがあります。
臨床的意義
- 顔面神経麻痺の評価:顔面神経損傷の診断において、後耳介筋反射の検査が神経学的検査として用いられることがあります(Prasad et al., 2018)。
- 耳鼻科手術時の指標:側頭骨手術において解剖学的ランドマークとして重要です。
- 進化的観点:ヒト以外の哺乳類では音源定位や感情表現のために重要な役割を果たしますが、ヒトでは進化の過程で機能が縮小しています(Diogo and Wood, 2019)。
後耳介筋はヒトでは退化的な構造ですが、解剖学的には明確に同定可能であり、顔面表情筋の一部として分類されます(Moore et al., 2022)。また、聴覚系の反射経路の一部としても機能することが示唆されています。
参考文献
- Bénateau, H., Alix, T., Labbé, D. et al. (2020) 'Anatomical study of the posterior auricular muscle with surgical perspectives', Journal of Cranio-Maxillofacial Surgery, 48(2), pp. 173-177. — 顔面再建手術における後耳介筋の解剖学的ランドマークとしての重要性を強調した研究。
- Diogo, R. and Wood, B. (2019) 'Comparative anatomy and phylogeny of primate muscles and human evolution', CRC Press. — 霊長類の筋肉の比較解剖学と系統発生について詳述し、ヒトの進化における耳介筋の役割について考察している重要な文献。