後耳介筋 Musculus auricularis posterior

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J0415 (右側の頭頚部の筋:後方からの図)

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J0930 (右の頚神経叢の枝:右側からの図)

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J1026 (隔離された右耳介軟骨と耳介筋:内側からの図)

後耳介筋は頭部の外耳周囲に位置する小型の骨格筋で、顔面表情筋の一部として分類されます (Standring, 2021)。ヒトでは退化的な構造ですが、解剖学的および臨床的に重要な意義を持ちます (Diogo and Wood, 2019)。

解剖学的構造

起始と停止

筋の形態と走行

後耳介筋は通常2〜3つの小さな筋束から構成され、これらは後方から耳介後面に向かって前方へ放射状に配列する形態をとります (Serra et al., 2019)。各筋束は薄く扁平で、長さは約15〜20mm、幅は3〜5mm程度です (Bénateau et al., 2020)。筋束間には結合組織が介在し、個々の筋束は独立した収縮が可能な構造を持ちます。

神経支配

後耳介筋は顔面神経 (第VII脳神経) の後耳介枝によって運動支配を受けます (Gray and Lewis, 2020; Moore et al., 2022)。顔面神経は茎乳突孔を出た直後に後耳介枝を分岐し、この枝は乳様突起の後方を上行して後耳介筋に到達します (Standring, 2021)。神経は筋の深層面から進入し、複数の終末枝に分かれて各筋束を支配します (Bénateau et al., 2020)。この神経支配パターンは顔面神経麻痺の診断において重要な解剖学的基盤となります (Prasad et al., 2018)。

血液供給

後耳介筋への動脈血供給は主に後耳介動脈によって行われます (Standring, 2021)。後耳介動脈は外頸動脈から分岐し、耳介の後方を上行しながら後耳介筋に栄養枝を送ります (Serra et al., 2019)。通常2〜3本の筋枝が筋の深層面に進入し、筋内で毛細血管網を形成します (Bénateau et al., 2020)。静脈還流は後耳介静脈を経て外頸静脈系に注ぎます。

周囲構造との関係

後耳介筋は浅層では皮膚および皮下組織に覆われ、深層では側頭骨乳様突起および耳介軟骨に接しています (Standring, 2021)。筋の前方には上耳介筋が、下方には耳介後リンパ節群が位置します (Moore et al., 2022)。また、筋の走行は後頭筋膜の一部を形成する筋膜層と密接に関連しています (Bénateau et al., 2020)。

機能的特性

運動機能

後耳介筋の主な作用は耳介を後上方へ牽引することです (Standring, 2021)。しかし、ヒトでは他の耳介筋 (前耳介筋、上耳介筋) と同様に退化しており、随意的に動かす能力は著しく低下しています。一部の個人 (推定で人口の10〜20%) では「耳を動かす」能力として残存していることがあり、これは遺伝的要因と関連すると考えられています (Diogo and Wood, 2019)。

進化的背景

多くの哺乳類では、耳介筋は音源定位のために高度に発達しており、独立して耳介を様々な方向に動かすことができます (Diogo and Wood, 2019)。しかし、霊長類、特にヒトでは視覚の発達に伴い聴覚定位の重要性が相対的に低下し、耳介筋の機能も退化しました。それでも解剖学的構造は保存されており、これは進化の痕跡器官として重要な意味を持ちます。