肋鎖靱帯 Ligamentum costoclaviculare
肋鎖靱帯は胸鎖関節の安定化に寄与する重要な靱帯構造です(Groh et al., 2008)。以下に解剖学的特徴と臨床的意義について詳述します。

J0308 (鎖骨、胸骨、そして第1肋骨とその靱帯:前方からの図)
解剖学的特徴
- 起始と停止:
- 起始:第1肋軟骨の内側端上面および第1肋骨の上縁(Standring, 2020)
- 停止:鎖骨下面の肋鎖靱帯圧痕(impression for costoclavicular ligament)
- 鎖骨下面の内側約1/3の部分に位置する粗面状の圧痕に付着します。
- 構造的特性:
- 強度:非常に強靱な線維性結合組織で構成され、胸鎖関節の靱帯の中で最も強力です(Brinckmann et al., 2002)。
- 層構造:前層と後層の2層から成り、線維の走行方向が異なります(Tubbs et al., 2007)。
- 前層:下内側から上外側に向かう線維
- 後層:下外側から上内側に向かう線維
- 関節包との関係:靱帯の内側部は胸鎖関節の関節包と密接に結合しています。
- 形態:短く厚い四角形または三角形の靱帯で、長さは約2-3cmです(Moore et al., 2017)。
- 周辺構造との関係:
- 鎖骨下筋(subclavius muscle)の下方に位置します。
- 鎖骨下静脈および鎖骨下動脈は、この靱帯の後外側を通過します(Standring, 2020)。
- 腕神経叢は靱帯の外側を通ります。
機能
- 機械的安定性:
- 胸鎖関節の主要安定化装置として機能します(Spencer et al., 2002)。
- 関節包の外側下部を補強し、関節の過剰な可動性を制限します。
- 運動制限:
- 鎖骨の挙上制限:肩を挙上する際の鎖骨の過度な上方移動を制限します(Groh et al., 2008)。
- 鎖骨の前方移動制限:鎖骨が前方へ過度に移動するのを防ぎます。
- 回旋制限:鎖骨の長軸周りの過度な回旋運動を制御します。
- 力の伝達:
- 上肢から体幹への力学的負荷の伝達において重要な役割を果たします(Neviaser, 1968)。
- 肩甲骨の運動に伴う鎖骨の動きを適切に誘導します。
臨床的意義
- 胸鎖関節脱臼:
- 肋鎖靱帯の損傷は胸鎖関節脱臼の主要な原因となります(Rockwood et al., 2009)。
- 前方脱臼:より一般的で、直接的な外傷や間接的な肩への力によって生じます(Groh et al., 2008)。
- 後方脱臼:まれですが重篤で、縦隔構造(気管、食道、大血管)の圧迫を引き起こす可能性があります(Laffosse et al., 2010)。
- 完全脱臼では肋鎖靱帯と関節包の両方が断裂します。
- 胸鎖関節炎:
- 感染性、炎症性(関節リウマチ、強直性脊椎炎など)、変形性の関節炎が生じることがあります(Yood & Goldenberg, 1980)。
- 肋鎖靱帯の炎症や石灰化を伴うことがあります。
- 胸肋鎖骨肥厚症(SAPHO症候群):
- 胸鎖関節周囲の骨硬化と肋鎖靱帯の骨化が特徴的です(Chamot et al., 1987)。
- 慢性的な疼痛と腫脹を引き起こします。
- Friedrich病:
- 若年者に見られる胸鎖関節の無菌性壊死で、肋鎖靱帯付着部に影響を及ぼします(Friedrich, 1924)。
- 胸郭出口症候群:
- 肋鎖靱帯の肥厚や異常な走行が、鎖骨下血管や腕神経叢を圧迫することがあります(Roos, 1976)。
- 特に肋鎖間隙(costoclavicular space)の狭小化に関与します。
- 外傷:
- 交通事故:シートベルトによる直接的な圧迫や衝撃
- スポーツ外傷:ラグビー、柔道、レスリングなどのコンタクトスポーツ
- 転倒:肩から地面に落ちた際の間接的な外力
- 画像診断:
- X線検査:胸鎖関節の脱臼や骨化、石灰化の評価(Sewell et al., 2013)
- CT検査:骨構造と関節の詳細な評価、後方脱臼の確認に有用
- MRI検査:靱帯損傷の程度、軟部組織の炎症、関節円板の評価に優れています(Nakayama et al., 2012)
- 超音波検査:動的評価や関節の不安定性の評価に使用されます