距骨頚 Collum tali

J0252 (右距骨:上方からの図)
解剖学的構造
距骨頚は、距骨体(corpus tali)と距骨頭(caput tali)を連結する狭窄部であり、距骨の重要な移行部として機能します(Standring, 2020)。この部位は以下の詳細な解剖学的特徴を有しています:
- **形態的特徴:**距骨体から距骨頭への移行部として、著明に細くなった構造を呈します。上下方向に扁平化しており、前後径に比べて垂直径が短縮しています(Netter, 2018)。
- **方向性:**外側上方から内側下方へ傾斜しており、この傾斜角度は足部の回内・回外運動に影響を与えます。距骨頚軸は距骨体の長軸に対して前内側方へ約15-20度偏位しています(Sarrafian, 2011)。
- **表面構造:**上面は比較的平滑ですが、下面および側面には粗面が存在し、靱帯や関節包の付着部となります。特に下面の粗糙な領域は距骨洞(sinus tarsi)の一部を形成します(Standring, 2020)。
- **血管構造:**距骨頚部には、足根洞動脈(a. sinus tarsi)や足背動脈の枝が進入し、距骨の血液供給において重要な役割を果たします(Mulfinger & Trueta, 1970)。この部位の血流は比較的乏しく、骨折後の無腐性壊死のリスクと関連します(Fortin & Balazsy, 2001)。
- **骨質:**海綿骨が主体であり、皮質骨は薄く、機械的強度は距骨体に比べて相対的に低下しています(Netter, 2018)。
臨床的意義
距骨頚は臨床的に極めて重要な部位であり、以下の観点から注目されます:
- **距骨頚骨折(Talar neck fracture):**高エネルギー外傷(特に自動車事故や高所からの転落)により発生する重篤な損傷です(Vallier et al., 2004)。Hawkins分類により4型に分類され(Hawkins, 1970)、Type I(転位なし)からType IV(距骨体・頭の脱臼を伴う)まで重症度が増します。転位の程度が大きいほど、無腐性壊死(AVN)や距骨下関節の変形性関節症のリスクが高まります(Canale & Kelly, 1978)。
- **無腐性壊死(Avascular necrosis, AVN):**距骨頚骨折後の最も深刻な合併症の一つです(Hawkins, 1970)。距骨の血液供給は主に足根洞動脈系に依存しており、骨折により血流が途絶すると距骨体の壊死が生じます(Mulfinger & Trueta, 1970)。発生率は骨折の重症度に相関し、Type IIで20-50%、Type III-IVでは80-100%に達します(Vallier et al., 2004)。
- **足根洞症候群(Sinus tarsi syndrome):**距骨頚の下面と踵骨の間に形成される足根洞の炎症や線維化により、外側足部痛と不安定感を呈する病態です。足関節捻挫後の遺残症状として比較的高頻度に認められます(Pisani, 2005)。
- **画像診断:**単純X線では側面像で距骨頚の形態評価が可能ですが、骨折線の詳細な評価にはCTが必須です(Vallier et al., 2004)。MRIは骨挫傷、無腐性壊死の早期診断、軟部組織損傷の評価に有用です(Fortin & Balazsy, 2001)。
- **治療上の考慮点:**距骨頚骨折の治療は転位の程度により決定されます。転位のない骨折は保存的治療が可能ですが、転位を伴う場合は早期の解剖学的整復と強固な内固定が推奨されます(Canale & Kelly, 1978)。手術アプローチは前内側または前外側が選択され、スクリュー固定が一般的です(Vallier et al., 2004)。術後の無腐性壊死の監視が長期的に必要です(Hawkins, 1970)。
距骨頚は、その解剖学的位置と構造的脆弱性、血液供給の特殊性から、外傷後の重大な合併症のリスクが高い部位として、整形外科領域において特に注意深い評価と管理が求められる構造です(Fortin & Balazsy, 2001)。
参考文献
- Canale ST, Kelly FB Jr. (1978). Fractures of the neck of the talus. Long-term evaluation of seventy-one cases. J Bone Joint Surg Am, 60(2), 143-156. ——距骨頚骨折の長期予後に関する古典的研究で、71例の追跡調査により転位の程度と予後の関係を明らかにした。