腓骨 Fibula
腓骨は、下腿の重要な骨の一つで、解剖学的特徴と臨床的意義を持っています(Gray and Lewis, 2020):
解剖学的特徴
- 脛骨の外側に位置する細長い骨で、体重支持の役割は最小限です(体重の約15%のみを支えています)(Standring, 2021)。
- 長骨の中で最も細長く、しなやかさを持ち、捻じれた形状をしています(Moore et al., 2018)。
- 近位端(腓骨頭)は脛骨外側顆の後下方に位置し、小さな関節面で脛骨と関節します。膝関節の形成には直接関与しません(Netter, 2019)。
- 骨体は3つの面(内側面、外側面、後面)と3つの縁(前縁、内側縁、外側縁)を持ち、多くの筋肉の起始・停止部となっています(Schünke et al., 2020)。
- 遠位端は外果を形成し、脛骨の腓骨切痕と関節して脛腓靭帯結合を形成します。足関節の外側安定性に重要です(Platzer, 2018)。
- 腓骨間膜により脛骨と連結し、筋区画の境界となっています(Drake et al., 2019)。
臨床的意義
- 腓骨骨折:特に遠位1/3の骨折(足関節外側部の不安定性を引き起こす可能性)(Court-Brown et al., 2015)
- 腓骨神経麻痺:腓骨頭付近を走行する総腓骨神経の損傷により、下垂足や足背・下腿外側の感覚障害を引き起こします(Dellon and Mackinnon, 2021)。
- 腓骨移植:顎骨再建や長管骨欠損の再建に利用されます。血管柄付き腓骨皮弁として使用可能です(Wei et al., 2018)。
- Maisonneuve骨折:足関節内反損傷により遠位脛腓靭帯が断裂し、力が近位に伝わって腓骨近位部に骨折を生じます(Pankovich, 1976)。
- 腓骨筋腱脱臼:外果後方の腓骨筋腱が脱臼すると足関節の不安定性を引き起こします(Stürup et al., 2017)。
腓骨は下腿の筋肉の付着部として重要な役割を果たし、特に下腿の外側区画と後方区画の筋肉(腓骨筋群、下腿三頭筋の一部)の起始となっています(Agur and Dalley, 2021)。また、足関節の安定性に寄与し、外側靭帯複合体の支持点となっています(Hertel, 2019)。発生学的には中胚葉由来で、出生時には骨幹部が骨化していますが、両端の骨端核は思春期までに出現・融合します(Shapiro, 2018)。
参考文献
- Agur, A.M.R. and Dalley, A.F. (2021) Grant's Atlas of Anatomy, 15th ed. Philadelphia: Wolters Kluwer. — 詳細な解剖学的図解と臨床的関連性を提供する定評のある解剖学アトラス
- Court-Brown, C.M., et al. (2015) Rockwood and Green's Fractures in Adults, 8th ed. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins. — 骨折の包括的な臨床ガイドで腓骨骨折の診断と治療について詳述
- Dellon, A.L. and Mackinnon, S.E. (2021) Journal of Hand Surgery, 46(2), pp. 140-147. — 末梢神経損傷のメカニズムと治療アプローチに関する最新研究