岬角 Promontorium (Os sacrum)
岬角は、骨盤および脊柱の重要な解剖学的構造であり、仙骨と腰椎の移行部に位置しています。以下にその詳細な解剖学的特徴と臨床的意義を記述します。
解剖学的特徴
- 仙骨底(第1仙椎)の前縁が前方に突出した部分であり、第5腰椎との関節を形成します (Standring, 2020)。
- 矢状面において、仙骨前面が急激に後方へ屈曲する変曲点として認識されます。
- 健常人では仙骨前傾角が120〜135°(仙骨底と水平面のなす角度)です (Le Huec et al., 2019)。
- 第4腰椎下縁と仙骨上縁を結ぶ接線上で最前方に位置し、骨盤入口の後縁の一部を形成します。
- 緻密骨(皮質骨)に覆われ、内部は海綿骨で構成されています。
- 表面は滑らかで、腹膜下組織により被覆されています (Drake et al., 2019)。
臨床的意義
- 産科学:産道の形態評価において重要な指標となり、骨盤計測の基準点として使用されます (Cunningham et al., 2018)。
- 放射線診断:CT、MRI、X線検査における重要な解剖学的ランドマークです。
- 腹腔鏡手術:骨盤内手術における重要な目印となり、正中仙骨動脈や上下腹神経叢の位置関係を把握する際に参照されます (Hoffman et al., 2020)。
- 脊椎疾患:腰仙角の測定における基準点として重要で、脊柱変形の評価に使用されます (Roussouly and Pinheiro-Franco, 2021)。
- 神経学:第1仙骨神経根が岬角の直下を走行するため、神経根症状の評価に関連します (Bogduk, 2022)。
病態生理学的意義
- 重複岬角:狭義の腰仙移行椎に伴って認められ、解剖実習体224体中59例(26.3%)で確認されています (Konin and Walz, 2018)。
- 岬角の突出が過度の場合、骨盤入口が狭小化し、分娩困難を引き起こす可能性があります (Kilpatrick and Garrison, 2022)。
- 仙骨前傾角の異常は、腰椎前弯の変化と関連し、腰痛の一因となりうります (Barrey et al., 2020)。
- 岬角部の骨棘形成は、腹部大動脈や総腸骨動脈の走行に影響を与える場合があります (Moore et al., 2019)。