岬角 Promontorium (Os sacrum)
岬角は、骨盤および脊柱における極めて重要な解剖学的構造であり、仙骨底(第1仙椎の上縁)の前縁が前方に突出した部分を指します。この構造は仙骨と腰椎の移行部に位置し、骨盤入口の後縁の一部を形成する重要なランドマークです。以下にその詳細な解剖学的特徴と臨床的意義を記述します。

J0325 (右の骨盤の靱帯:前面から少し上からの図)

J0490 (腰部の筋:腹側図)

J0491 (右の鼡径部の筋膜:腹側からの図)

J0797 (女性の骨盤臓器の正中矢状断面:左側からの右半分の図)

J0961 (右側の骨盤の神経:左方からの図)
1. 解剖学的特徴
1.1 位置と形態
- 岬角は仙骨底(第1仙椎)の前縁が前方に突出した部分であり、第5腰椎椎体の下面と第1仙椎椎体の上面との間に形成される腰仙関節(椎間円板を含む)の前方に位置します (Standring, 2020)。
- 矢状面において、仙骨前面が急激に後方へ屈曲する変曲点として認識され、この角度変化が骨盤矢状面バランスに重要な役割を果たします。
- 健常人では仙骨前傾角(sacral slope)が40〜50°であり、仙骨底と水平面のなす角度は約120〜135°です。この角度は脊椎全体のアライメントと密接に関連しています (Le Huec et al., 2019)。
- 第4腰椎下縁と仙骨上縁を結ぶ接線上で最前方に位置し、骨盤入口(pelvic inlet)の後縁の一部を形成します。骨盤入口の前後径(真結合線:conjugata vera)は岬角から恥骨結合上縁内面までの距離として定義されます。
1.2 組織学的構造
- 岬角の表面は緻密骨(皮質骨)に覆われ、内部は海綿骨(trabecular bone)で構成されています。海綿骨の骨梁配列は、垂直方向および水平方向の応力分布に適応した構造を示します。
- 表面は滑らかで、腹膜下組織(extraperitoneal tissue)により被覆されています。この領域には壁側腹膜が密着しており、腹腔内からの触診が可能です (Drake et al., 2019)。
- 岬角の骨質は加齢とともに変化し、骨粗鬆症の影響を受けやすい部位の一つです。骨密度の低下は圧迫骨折のリスクを高めます。
1.3 周囲構造との関係
- 岬角の前方には、腹部大動脈の分岐部(大動脈分岐部は通常第4腰椎レベル)から続く左右の総腸骨動脈が走行します。岬角は左総腸骨静脈との位置関係が特に重要で、この静脈は右総腸骨動脈と岬角の間を通過します (Moore et al., 2019)。
- 岬角の後方には、硬膜嚢が終末円錐(conus medullaris)から続き、第1〜2仙椎レベルで馬尾神経に移行します。第1仙骨神経根(S1神経根)は岬角の直下を走行するため、神経根症状の評価に関連します (Bogduk, 2022)。
- 岬角の前面には上下腹神経叢(superior and inferior hypogastric plexus)が分布し、骨盤内臓器の自律神経支配に関与します。手術時にはこの神経叢の損傷を避けることが重要です (Hoffman et al., 2020)。
2. 臨床的意義
2.1 産科学における意義
- 骨盤計測:産道の形態評価において岬角は極めて重要な指標となります。真結合線(conjugata vera)は岬角から恥骨結合上縁内面までの距離として定義され、正常値は約11cm以上です。この値が10cm未満の場合、児頭骨盤不均衡(cephalopelvic disproportion: CPD)のリスクが高まります (Cunningham et al., 2018)。