上肋骨窩 Fovea costalis superior

J0126 (第6胸椎:頭側からの図)
J0127 (第6胸椎:右側からの図)

J0128 (第九胸椎から第二腰椎:右方から、そして少し背面からの図)

J0304 (右側の肋骨と関連する椎骨、靱帯)
定義と解剖学的位置
上肋骨窩(superior costal facet; fovea costalis superior)は、胸椎椎体の外側上縁付近に位置する楕円形ないし半月形の関節面で、肋骨頭(caput costae)の関節面と接合して肋椎関節(costovertebral joint)を形成します(Gray and Lewis, 2021)。この関節面は椎体の後外側部に位置し、椎弓根基部の近傍に存在します(Standring, 2020)。
詳細な解剖学的特徴
- 椎体レベル別の形態的特徴:第2~第9胸椎では、椎体上縁の外側後部に半月形の上肋骨窩が存在します。この半月形の関節面は、隣接する上位椎体の下肋骨窩(fovea costalis inferior)と合わさることで、完全な円形に近い関節窩を形成し、対応する肋骨頭を受け入れます(Moore et al., 2019)。椎間円板が両椎体間に介在するため、肋骨頭は実際には2つの椎体と椎間円板に接する三点支持構造を形成します(Neumann, 2018)。
- 第1胸椎の特殊性:第1胸椎の上肋骨窩は例外的に完全な円形の関節面として存在し、第1肋骨頭全体を受け入れます。これは第1肋骨が第1胸椎のみと関節連結し、他の椎体と関節を形成しないという解剖学的特殊性によるものです(Bogduk, 2021)。この構造により第1肋椎関節は他の肋椎関節よりも可動性が制限されています。
- 第10胸椎の移行形態:第10胸椎では、椎体上端に半月形の上肋骨窩が存在し、第9胸椎の下肋骨窩と協調して第10肋骨頭との関節を形成します。しかし第10胸椎の下肋骨窩は発達が不良または欠如していることが多く、第11肋骨との関節形成には通常関与しません(Netter, 2022)。
- 第11・第12胸椎の形態変化:第11胸椎と第12胸椎には上肋骨窩と下肋骨窩の区別が存在せず、代わりに椎体側面中央部に単一の完全な肋骨窩(fovea costalis)が存在します。この肋骨窩は対応する肋骨(第11、第12肋骨)の肋骨頭と単独で関節し、他の椎体との共有関節は形成しません(Standring, 2020)。この構造的特徴により、下位肋骨はより大きな可動性を有します。
関節構造と生体力学
- 肋椎関節の構造:上肋骨窩と下肋骨窩が合わさって形成される関節窩は、硝子軟骨で覆われた肋骨頭の凸面と滑膜性関節を形成します(Gray and Lewis, 2021)。関節包は強靭で、放射状肋骨頭靱帯(ligamentum capitis costae radiatum)によって補強されています。さらに関節内肋骨頭靱帯(ligamentum capitis costae intraarticulare)が肋骨頭を椎間円板に固定し、関節を二分割します(Moore et al., 2019)。
- 運動学的機能:肋椎関節は胸郭の呼吸運動において重要な回転軸として機能します。上位肋骨では主に前後方向の「pump-handle」運動が、下位肋骨では主に側方への「bucket-handle」運動が生じ、これらの運動が胸郭容積の変化を可能にします(Neumann, 2018)。上肋骨窩はこの回転運動の解剖学的支点として機能します。
- 荷重分散機能:肋椎関節は体幹の重量を肋骨を介して胸骨へ伝達する役割を果たします。上肋骨窩は隣接椎体の下肋骨窩とともに、この荷重を均等に分散する機構を提供します(Magee, 2020)。
臨床的意義と病態
- 肋椎関節症候群:肋椎関節の機能障害は、胸背部痛の重要な原因となります。上肋骨窩周囲の関節包や靱帯の炎症、あるいは関節内の滑膜ひだの嵌頓により、鋭い胸部痛や呼吸時の痛みが生じます(Bogduk, 2021)。この症状は深呼吸、咳嗽、体幹回旋時に増悪する特徴があります。
- 外傷性病変:胸部鈍的外傷、転落、交通事故などにより、肋椎関節の亜脱臼や完全脱臼が発生することがあります。特に第1肋椎関節は外傷により腕神経叢や鎖骨下血管を圧迫する危険性があります(Moore et al., 2019)。また繰り返しの捻転ストレスや過度の側屈により、上肋骨窩周囲の関節軟骨損傷や関節包の微小断裂が生じることがあります。
- 変性疾患:加齢に伴い肋椎関節の軟骨が摩耗し、上肋骨窩周囲に骨棘(osteophyte)が形成されます。これにより肋椎関節症(costovertebral arthropathy)が発症し、慢性的な胸背部痛、関節可動域制限、呼吸機能低下の原因となります(Willard et al., 2018)。骨棘が肋間神経根を圧迫すると、肋間神経痛を引き起こすこともあります。
- 炎症性疾患:強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis)や乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)などの血清反応陰性脊椎関節症では、肋椎関節が早期に侵される傾向があります(Standring, 2020)。上肋骨窩周囲の炎症と骨化により、胸郭の拡張性が著しく制限され、拘束性換気障害の原因となります。
- 感染症:血行性に細菌が肋椎関節に到達すると、化膿性肋椎関節炎が発症します。糖尿病、免疫抑制状態、静脈内薬物使用者で高リスクです。上肋骨窩周囲の骨破壊や膿瘍形成により、重篤な胸部痛と敗血症を引き起こします(Gray and Lewis, 2021)。
- 腫瘍性病変:肺癌や乳癌の胸椎転移は、しばしば肋椎関節周囲に進展し、上肋骨窩の骨破壊を引き起こします。これにより病的骨折や神経圧迫症状が出現します(Netter, 2022)。また多発性骨髄腫や原発性骨腫瘍も肋椎関節に発生することがあります。