隆椎 Vertebra prominens [CVII]
隆椎(第7頚椎)は、頚椎と胸椎の移行部に位置する解剖学的・臨床的に極めて重要な椎骨です。その特異な形態学的特徴と体表からの触知可能性により、臨床診断における重要な指標として広く利用されています (Standring, 2020; Gray and Williams, 2015)。

J0124 (第七頚椎:頭側からの図)

J0125 (頚椎:前面からの図)

J0137 (各種の椎骨と椎骨の破格を集めて、個々のピースの形態学的価値を示します(Quainによる))

J0149 (胸郭と肩帯:上方からの図)

J0295 (頭蓋骨と頚椎の靭帯:右側からの図)

J0639 (頭頚部の正中矢状断:左側からの右半分の図)
解剖学的特徴
1. 位置と全体構造
- 第7頚椎(C7)として頚椎の最下位に位置し、第1胸椎(T1)との間で頚胸椎移行部を形成します (Standring, 2020)。
- 椎体は頚椎の中で最も大きく、高さ・幅ともに上位胸椎に匹敵する寸法を持ちます (Moore et al., 2018)。
- 椎体の前後径は約15mm、横径は約25mm、高さは約12mmで、上位頚椎と比較して明らかに大型化しています (Netter, 2019)。
- 椎体上面は軽度に凹面を呈し、下面は平坦または軽度凸面で、胸椎様の形態的特徴を示します (Drake et al., 2019)。
2. 棘突起の特徴
- 棘突起は頚椎の中で最も長大で、長さは50-70mmに達し、強く後方に突出します (Standring, 2020)。
- 上位頚椎(C3-C6)とは異なり、棘突起の先端は二分せず、単一の結節状を呈します (Gray and Williams, 2015)。
- 棘突起は水平またはわずかに下方に傾斜し、皮下で容易に触知できることから「vertebra prominens」(隆起した椎骨)と呼ばれます (Moore et al., 2018)。
- 頭部前屈時に最も後方に突出して触知されるため、体表解剖学的指標として臨床上重要です (Magee, 2021)。
- 棘突起には項靭帯、棘上靭帯、棘間靭帯が付着し、さらに僧帽筋、菱形筋、棘筋などの筋が停止します (Drake et al., 2019)。
3. 横突起と椎骨動脈孔
- 横突起は大きく発達し、前結節(anterior tubercle)と後結節(posterior tubercle)を明瞭に認めます (Standring, 2020)。
- 前結節と後結節の間には肋横突孔(costotransverse foramen)の痕跡が認められることがあります (Netter, 2019)。
- 前結節は第8頚神経の前枝が通過する部位であり、臨床的に重要な解剖学的関係を持ちます (Moore et al., 2018)。
- 横突孔(transverse foramen)は通常存在しますが、約5-10%の症例で欠如または著しく縮小していることが報告されています (Tubbs et al., 2016)。