歯突起 Dens axis
歯突起(dens axis)は、解剖学的に重要な構造であり、以下のような特徴を持っています(Standring, 2023):
- 第2頚椎(C2、軸椎)の椎体から上方に突出する円錐状の骨性突起です。
- 発生学的には、軸椎椎体と環椎椎体の融合によって形成されます(Cramer and Darby, 2017)。
- 前面には関節面があり、環椎の前弓内側面と関節します。
- 後面には横靱帯が位置する溝(横靱帯溝)が存在します。
- 先端部は歯突起尖(apex dentis)と呼ばれ、翼状靱帯が付着します。
解剖学的関係
歯突起の解剖学的関係(Moore et al., 2022):
- 前方には前環軸靱帯が付着し、安定性を提供します。
- 後方には歯突起靱帯(靱帯支帯)が付着し、後方支持を担います。
- 歯突起の頂部から後頭骨底に向かって尖靱帯が伸び、頭部の安定性に寄与します。
- 環椎の前弓との間に環歯関節を形成し、頭部の回旋運動を可能にします。
臨床的意義
臨床的意義(Joaquim et al., 2020):
- 頭部回旋の中心軸として機能し、頭部の約50%の回旋運動を担います。この機能により、広範囲の視野確保が可能となります。
- 歯突起骨折は、脊髄圧迫や損傷を引き起こす危険性が高く、四肢麻痺や呼吸不全などの重篤な合併症を生じる可能性があります。特に高齢者や外傷患者で注意が必要です(Anderson and Montesano, 1988)。
- リウマチ性関節炎患者では、炎症による歯突起周囲の靱帯弛緩や骨侵食により環軸亜脱臼を生じることがあり、頚髄圧迫症状を呈することがあります。定期的な画像評価が重要です(Kauppi and Neva, 1998)。
- 先天性異常として歯突起形成不全や歯突起低形成が存在し、環軸不安定性や脊髄症の原因となります。これらは小児期から症状を呈することがあり、早期診断が重要です(Fielding et al., 1980)。
歯突起は頭部の回旋運動に不可欠な役割を果たすとともに、後頭骨と頚椎の安定性にも大きく寄与しています。その損傷や異常は、脊髄圧迫による四肢麻痺や感覚障害、自律神経症状など重篤な神経学的症状を引き起こす可能性があるため、臨床的に極めて重要な構造です(Dickman et al., 2019)。頚部外傷患者の評価や神経学的症状を呈する患者の診察においては、常に歯突起の状態を考慮する必要があります。