歯突起 Dens axis
歯突起(dens axis)は、第2頚椎(軸椎、C2)の椎体上面から上方に突出する円錐状の骨性突起であり、頭蓋頚椎移行部の解剖学的構造において最も重要な要素の一つです(Standring, 2023)。以下に、その詳細な解剖学的特徴を示します:

J0122 (軸椎:右方からの図)
J0123 (軸椎:腹側からの図)

J0125 (頚椎:前面からの図)

J0157 (6ヶ月胎児の軸椎:前方からの図)

J0298 (環椎と軸椎の靱帯:上方からの図)

J0302 (後頭骨と最初から三番目までの頚椎を含む正中矢状断とそのリング状の組織:左方からの若干図式化された図)
形態学的特徴
- 歯突起は高さ約15mm、基部の直径約10mmの円錐状構造を呈し、その先端は鈍円に終わります(Moore et al., 2022)。
- 発生学的には、本来環椎(C1)の椎体に相当する部分が軸椎椎体と融合して形成されたものであり、生後3〜6歳頃に完全な骨性癒合が完成します(Cramer and Darby, 2017)。
- 前面は滑らかな関節面を形成し、環椎前弓後面の歯突起窩(fovea dentis)と正中環軸関節(atlantoaxial joint)を構成します。この関節は滑膜関節であり、豊富な滑液によって潤滑されています。
- 後面には横靱帯溝(groove for transverse ligament)と呼ばれる浅い陥凹が存在し、ここに環椎横靱帯が接触します。この接触部も軟骨で覆われ、機能的な関節面として作用します。
- 先端部(歯突起尖、apex dentis)は、大後頭孔前縁の正中部に向かって伸展し、ここに尖靱帯(apical ligament)が付着します。
- 歯突起の基部付近の外側面には、左右一対の翼状靱帯(alar ligaments)が付着する小さな粗面が認められます。
血管分布と神経支配
歯突起の血管供給は複雑であり、その理解は臨床的に重要です:
- 主要な血液供給は、前後脊髄動脈系からの分枝と、椎骨動脈からの直接分枝によって行われます(Schiff and Parke, 1973)。
- 歯突起基部には豊富な血管網が存在しますが、中央部および先端部は相対的に血流が乏しく、これが骨折後の癒合不全のリスク因子となります(Anderson and Montesano, 1988)。
- 神経支配は、第1頚神経(C1)および第2頚神経(C2)の分枝によって行われ、特に後枝が歯突起周囲の感覚を担当します(Bogduk, 1992)。
靱帯構造と解剖学的関係
歯突起の安定性は、複数の靱帯構造によって維持されています(Moore et al., 2022; Tubbs et al., 2011):
環椎横靱帯(Transverse ligament of the atlas)
- 歯突起の後方を横走する強靱な線維束で、環椎の両側塊内側面を結びます。
- 幅約10mm、厚さ約5mmの帯状構造で、歯突起を前方に押さえつけ、環椎からの後方脱臼を防止します。