後弓(環椎の)Arcus posterior atlantis
環椎の後弓は第1頸椎の重要な構成要素であり、特殊な解剖学的構造と重要な臨床的意義を持ちます(Gray, 2020; Netter, 2019)。以下に詳細を記述します。

J0120 (環椎:頭蓋骨側からの図)
J0121 (環椎:尾側からの図)

J0302 (後頭骨と最初から三番目までの頚椎を含む正中矢状断とそのリング状の組織:左方からの若干図式化された図)

J0928 (右上部頚神経の後枝:後方からの図)
1. 解剖学的特徴
基本構造
- 環椎の後弓は、環椎を構成する2つの主要な弓状構造のうち大きい方であり、通常の椎骨の椎弓(lamina)に相当します(Standring, 2021)。
- 長さは約2.0-2.5cm、厚さは3-4mmで、滑らかな弧状の形態を持ちます(Moore et al., 2018)。
- 前弓(arcus anterior)に比べて後弓は有意に長く、椎孔(foramen vertebrale)の後方約3分の2を形成しています(Drake et al., 2020)。
表面構造
- 後弓の正中後部には後結節(tuberculum posterius)があり、これは他の頸椎の棘突起に相当する構造です。ただし、通常の棘突起と比較して非常に小さく、突出も弱いのが特徴です(Standring, 2021)。
- 後結節は項靭帯(ligamentum nuchae)と小後頭直筋(musculus rectus capitis posterior minor)の付着部となっています(Drake et al., 2020)。
- 後弓の上面には、椎骨動脈溝(sulcus arteriae vertebralis)または椎骨動脈溝(vertebral artery groove)と呼ばれる明瞭な溝が存在します。この溝は外側塊の上方から後結節に向かって走行します(Sinnatamby, 2018)。
- 椎骨動脈溝には椎骨動脈(vertebral artery)と第1頸神経後枝(posterior ramus of C1 nerve、後頭下神経)が通過します(Tubbs et al., 2007)。
- まれに(約3-15%)、椎骨動脈溝が骨性の橋(arcuate foramen または Kimmerle異常)によって完全な孔に変化している場合があり、これは椎骨動脈の圧迫症状の原因となることがあります(Elliott and Tanweer, 2014)。
環椎の特殊性
- 環椎は通常の椎骨とは異なり、椎体(corpus vertebrae)を持ちません。発生学的には、環椎の椎体部分が軸椎(第2頸椎)に移行して歯突起(dens axis)を形成したためです(Tortora and Derrickson, 2017)。
- 椎体の代わりに、環椎は小さな前弓と大きな後弓、そして2つの外側塊(lateral masses)から構成される環状構造となっており、これが「環椎(atlas)」という名称の由来です(Standring, 2021)。
- この環状構造により、環椎は他の頸椎よりも大きな椎孔を形成し、延髄と脊髄の移行部を安全に収容しています(Moore et al., 2018)。
2. 機能と役割
保護機能