後弓(環椎の)Arcus posterior atlantis
環椎の後弓は解剖学的に重要な構造で、以下の特徴と臨床的意義があります(Gray, 2020; Netter, 2019):
解剖学的特徴
- 環椎(第1頸椎)の最も長い部分であり、通常の椎骨の椎弓に相当します(Standring, 2021)。
- 長さは約2.0-2.5cm、厚さは3-4mmで、弧状の形態を持ちます(Moore et al., 2018)。
- 後弓の正中後部には後結節(tuberculum posterius)があり、上項線につながる筋肉の付着部となっています(Drake et al., 2020)。
- 後弓の上面には、椎骨動脈が通過する溝(sulcus arteriae vertebralis)が存在します(Sinnatamby, 2018)。
環椎は通常の椎骨とは異なり、椎体を持ちません。代わりに、小さな前弓と大きな後弓から構成される環状構造となっており、これが「環椎」という名称の由来です(Tortora and Derrickson, 2017)。
機能と役割
- 脊髄を後方から保護するとともに、椎骨動脈や脊髄神経の通路を確保します(Standring, 2021)。
- 後頭骨との間で形成される環椎後頭関節は、頭部の前屈・後屈(うなずき)運動に寄与します(Neumann, 2017)。
- 第2頸椎(軸椎)との関節により、頭部の回旋運動を可能にします(Palastanga and Soames, 2019)。
臨床的意義
- 後弓骨折:交通事故や転落などの外傷で生じることがあり、脊髄損傷のリスクがあります(Joaquim et al., 2018)。
- 先天性欠損:約4%の人に環椎後弓の部分的または完全欠損が見られ、多くは無症状ですが、画像診断で誤って骨折と判断されることがあります(Senoglu et al., 2016)。
- 環椎後弓部へのスクリュー固定術は、環椎の不安定性治療に用いられる重要な手術手技です(Yeom et al., 2020)。
参考文献
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2020) Gray's Anatomy for Students. 4th ed. Philadelphia: Elsevier.
- Gray, H. (2020) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. 42nd ed. Edinburgh: Elsevier.
- Joaquim, A.F. et al. (2018) 'Upper cervical injuries: Clinical update', Journal of Spine Surgery, 4(3), pp.737-744.