頚椎[C1-C7] Vertebrae cervicales [CI-CVII]
頚椎は脊柱の最上部に位置する7つの椎骨で構成され、頭蓋骨の支持と可動性の確保、および脊髄保護という重要な機能を担っています。以下、解剖学的特徴と臨床的意義について詳述します。
1. 解剖学的特徴と構造
頚椎は脊柱の頸部を構成し、頭蓋底から胸椎に至る重要な連結部分です(Standring, 2021)。その基本構造として:
- 椎体は前後に短く、横径が広い楕円形で、上面は側方に隆起した鈎状突起(uncinate process)を有し、下位椎体との関節(Luschka関節)を形成します(Mercer and Bogduk, 2001)。
- 椎弓は椎体後部から伸び、脊柱管を形成して脊髄を保護します。椎弓の接合部は椎弓根(pedicle)と呼ばれます(Drake et al., 2020)。
- 各頚椎は2対の関節突起(上関節突起と下関節突起)を持ち、隣接する椎骨間で椎間関節を形成します(Yoganandan et al., 2001)。
- 横突孔(foramen transversarium)は第1〜第6頚椎の横突起に存在し、椎骨動脈、静脈、および交感神経線維が通過します(Cramer and Darby, 2017)。
2. 個々の頚椎の特徴
各頚椎はそれぞれ特有の形態を示します(Moore et al., 2022):
- 第1頚椎(環椎/Atlas):椎体を持たず、前弓と後弓からなる環状構造で、後頭骨と関節を形成します。後頭骨との間の環椎後頭関節(atlanto-occipital joint)は主に屈曲・伸展運動を可能にします(Bogduk and Mercer, 2000)。
- 第2頚椎(軸椎/Axis):歯突起(dens axis)を持ち、この突起は第1頚椎の前弓と横靭帯の間で回転し、環軸関節(atlanto-axial joint)を形成して頭部の回旋運動を可能にします(Panjabi et al., 2001)。
- 第3〜第6頚椎:典型的な頚椎の特徴を持ち、椎体の上面は前方に凹、下面は前方に凸の形状(鞍状)を示します。棘突起は二分岐しており、終末部は分岐しています(Ebraheim et al., 2004)。
- 第7頚椎(隆椎/Vertebra prominens):長い棘突起を持ち、皮膚表面から触知可能です。頭頚部の解剖学的ランドマークとして臨床的に重要です。横突孔は小さく、通常椎骨動脈は通過しません(An et al., 2008)。
3. 臨床的意義と病態
頚椎は臨床的に重要な部位であり、様々な病態と関連しています(Bogduk and Mercer, 2000; White and Panjabi, 1990):
- 頚椎症(Cervical spondylosis):加齢に伴う退行性変化で、椎間板の変性、椎体縁の骨棘形成、および関節面の変形を特徴とします。神経根圧迫による神経根症や脊髄圧迫による脊髄症を引き起こす可能性があります(Matsumoto et al., 2010)。
- 椎間板ヘルニア:C5/C6、C6/C7レベルが最も一般的で、対応する神経根(C6、C7)の圧迫症状を呈します。典型的には、上肢の放散痛、感覚異常、および筋力低下が観察されます(Carette and Fehlings, 2005)。
- 頚椎不安定症:靭帯損傷や関節変性による過度の可動性で、特に環軸関節の不安定性は重大な神経学的合併症を引き起こす可能性があります(Dvorak et al., 2003)。
- 外傷性損傷:頚椎は高速衝突事故(むち打ち症)や飛び込み事故で損傷を受けやすく、第5-6頚椎レベルが最も脆弱です。重度の損傷は四肢麻痺を含む重篤な神経学的障害を引き起こす可能性があります(Yoganandan et al., 2013)。