
J0060 (右の頬骨:内側からの図)

J0092 (右眼窩の側壁:左側からの図)
頬骨眼窩孔 Foramen zygomaticoorbitale
頬骨眼窩孔は解剖学的に重要な構造で、以下の詳細な特徴を持ちます(Gray, 2020):
- 解剖学的位置:頬骨(Os zygomaticum)の眼窩面に位置する小孔で、眼窩内側から側頭窩へと通じています(Standring, 2021)。
- 形態学的特徴:直径約1-2mmの円形または楕円形の孔で、個体差や左右差が存在します(Tubbs et al., 2019)。
- 発生学的背景:頭蓋顔面の発生過程において、頬骨原基の骨化に伴って形成されます(Sperber, 2010)。
- 通過構造:
- 頬骨側頭神経(N. zygomaticotemporalis):三叉神経第2枝の上顎神経の分枝(Moore et al., 2018)。
- 頬骨顔面神経(N. zygomaticofacialis):同じく上顎神経の分枝。
- 随伴する細動脈および静脈(Netter, 2019)。
- 臨床的意義:
- 顔面神経ブロックや上顎神経ブロックの際の重要な解剖学的指標となります(Tran et al., 2022)。局所麻酔時に頬骨眼窩孔を通過する神経の走行を理解することで、より効果的で安全な神経ブロックが可能となります。
- 頬骨骨折の診断と治療において考慮すべき構造です(Ellis and Zide, 2006)。特に頬骨体骨折や頬骨弓骨折の際、頬骨眼窩孔を通過する神経の損傷リスクを評価する必要があります。CT画像による術前評価で骨折線が頬骨眼窩孔に及んでいるかを確認することが重要です。
- この部位の神経損傷は、頬部の知覚異常を引き起こす可能性があります(Kumar et al., 2018)。頬骨骨折、眼窩底骨折、顔面外傷後に頬部や側頭部の感覚鈍麻や異常感覚(paresthesia)が生じることがあり、これは頬骨眼窩孔を通過する神経の損傷に起因します。
- 眼窩手術、特に眼窩外側壁へのアプローチ時に頬骨眼窩孔の位置を把握することは、医原性神経損傷を避けるために必須です。眼窩減圧術や眼窩腫瘍摘出術において、この解剖学的ランドマークの理解が手術の安全性を高めます。
- 顔面形成手術(頬骨形成術、顔面輪郭形成術)においても、頬骨眼窩孔の位置を考慮した骨切り線の設定が必要です。美容外科領域での頬骨縮小術では、神経損傷による術後の知覚障害を避けるため、詳細な術前画像評価が推奨されます(Kim et al., 2019)。
- 三叉神経痛の診断と治療において、頬骨眼窩孔領域の痛みが上顎神経第2枝の神経痛の一症状として現れることがあります。この場合、神経ブロックによる診断的治療や、難治例では神経切除術の適応が検討されます(Zakrzewska and Linskey, 2014)。
- 顔面帯状疱疹(herpes zoster)が上顎神経領域に発症した際、頬骨眼窩孔周囲に水疱形成や神経痛が出現することがあります。帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia)として慢性化するケースもあり、早期の抗ウイルス薬投与と疼痛管理が重要です(Johnson et al., 2010)。
解剖学的変異として、日本人の頭蓋骨を対象とした詳細な研究では、頬骨眼窩孔の出現頻度に関する興味深い知見が報告されています(平田, 2000):
- 240頭蓋の480側中、20頭蓋(8.3%)、21側(4.4%)で頬骨眼窩孔の欠如が観察されています。
- 欠如している場合、代償性に他の小孔が発達している例や、神経走行の変異を伴う例が報告されています(山田と鈴木, 2015)。臨床的には、頬骨眼窩孔が欠如している症例では、神経が頬骨内を異なる経路で走行するため、神経ブロックの効果が不十分になる可能性があります。
- この変異は民族間で出現頻度に差があり、人類学的研究においても重要な指標となっています(Hanihara and Ishida, 2001)。ヨーロッパ系集団と比較して、アジア系集団では欠如率がやや高い傾向が報告されており、術前評価における人種的背景の考慮が推奨されます。
臨床的には、頬骨眼窩孔の位置や大きさ、存在の有無を術前に把握することが、顔面手術や神経ブロックの成功率向上に寄与します。特に頭蓋顔面外科、形成外科、歯科口腔外科領域での術前評価において重要視されています(Park et al., 2020)。
術前画像評価としては、以下の方法が推奨されます:
- 高解像度CT(HRCT)による頬骨眼窩孔の三次元的位置評価。特に冠状断と軸位断での観察が有用です(Lee et al., 2017)。
- MRI検査による神経走行の可視化。T2強調画像やCISS(Constructive Interference in Steady State)シーケンスにより、頬骨眼窩孔を通過する神経の描出が可能です(Casselman et al., 2013)。
- 3D-CTによる術前シミュレーション。特に頬骨骨折や顔面形成手術では、頬骨眼窩孔の位置を三次元的に把握し、手術計画に反映させることが重要です(Hwang et al., 2016)。