眼窩面(頬骨の)Facies orbitalis (Os zygomaticum)
頬骨の眼窩面は、頭蓋骨の重要な構成要素であり、解剖学的および臨床的に重要な意義を持ちます(Standring, 2020)。この面は眼窩の外側壁と下壁の一部を形成し、眼球とその周囲組織を保護する重要な構造です。

J0060 (右の頬骨:内側からの図)

J0090 (右の眼窩:前方からの図)

J0091 (右の眼窩、アノテーション付き:前方からの図)
解剖学的特徴
- 眼窩面は頬骨の上面に位置し、滑らかな凹面を呈します。この面は眼窩の外側壁の前部と眼窩底の外側部を形成し、眼球とその付属器官(外眼筋、眼窩脂肪、涙腺など)を保護します(Drake et al., 2019)。
- 眼窩面は蝶形骨大翼の眼窩面と後方で連続し、両者の間には頬骨蝶形骨縫合(sutura zygomaticosphenoidalis)が存在します。この連続性により、眼窩の外側壁が完全な骨性の壁として形成されます(Netter, 2018)。
- 眼窩面の内側縁は上顎骨の眼窩面と接合し、頬骨上顎縫合(sutura zygomaticomaxillaris)を形成します。この縫合は眼窩底の外側部を構成し、眼窩の構造的完全性に寄与します(Moore et al., 2022)。
- 眼窩面の前部下方には粗造面があり、ここで上顎骨の頬骨突起と関節します。この関節部は顔面中部の骨格の安定性を保つ重要な支持点となります(Sinnatamby, 2021)。
- 眼窩面には1〜2個の頬骨眼窩孔(foramen zygomaticoorbitale)が開口しています。この孔からは頬骨顔面神経(上顎神経の枝である頬骨神経の分枝)と同伴血管が進入し、頬骨内を走行した後、頬骨顔面孔と頬骨側頭孔から出て顔面と側頭部の皮膚に分布します(Standring, 2020)。
- 眼窩面は蝶形骨大翼に連続する骨梁構造によって前後に区分される傾向があります。この骨梁は眼窩内の力(眼圧、外眼筋の収縮力、外傷による衝撃など)を効果的に分散させる構造工学的な役割を果たします(Netter, 2018)。
- 眼窩面の上部は眼窩外下壁の前部を形成する凹面であり、下斜筋(musculus obliquus inferior)の起始部に近接しています。この解剖学的関係は、眼窩底骨折の際の眼球運動障害の理解に重要です(Drake et al., 2019)。
臨床的意義
- 眼窩底骨折(blow-out fracture):頬骨の眼窩面は眼窩底の外側部を構成するため、外傷により骨折しやすい部位です。特に眼窩への直接的な打撃により、眼窩内圧が急上昇し、最も薄い眼窩底部(特に眼窩下溝付近)が破綻します。骨折により眼窩内容物(眼窩脂肪、下直筋、下斜筋など)が上顎洞内に脱出し、眼球陥凹(enophthalmos)、眼球運動障害、複視(diplopia)を引き起こします(Ellis and Zide, 2017)。
- 頬骨複合骨折(zygomaticomaxillary complex fracture / tripod fracture):頬骨は3つの主要な縫合線(前頭頬骨縫合、頬骨上顎縫合、頬骨側頭縫合)で周囲の骨と結合しており、強い外力によりこれらの縫合部で同時に骨折が生じることがあります。眼窩面の損傷により、眼窩容積の増大、眼窩形態の変化が生じ、眼球陥凹や複視の原因となります。また、頬骨の外側・下方への転位により顔面の非対称性が生じます(Fonseca et al., 2017)。
- 頬骨眼窩孔の損傷:頬骨骨折に伴い頬骨眼窩孔やその内部を走行する頬骨神経が損傷されると、頬部や側頭部の皮膚に感覚異常(知覚鈍麻、知覚過敏、異常感覚)が生じます。この神経障害は一過性のことも永続的なこともあります(Perry and Holmes, 2020)。
- 眼窩内手術のランドマーク:眼窩減圧術(甲状腺眼症における眼窩内圧の軽減)、眼窩腫瘍摘出術、眼窩底再建術などの眼窩内手術において、頬骨眼窩面は重要な解剖学的ランドマークとなります。外科医は眼窩面の形態を指標として、安全な手術アプローチを計画します(Dutton, 2021)。
- 加齢変化と美容外科:加齢により頬骨を含む眼窩縁が骨吸収により退縮すると、眼窩容積が増大し、眼窩脂肪が前方に突出します(眼窩脂肪ヘルニア)。これにより下眼瞼の膨隆(eye bags / 涙袋)が形成されます。下眼瞼形成術(blepharoplasty)では、眼窩縁の解剖学的変化を考慮した外眼角支持や眼窩脂肪の再配置が重要となります(Codner et al., 2018)。
- 眼窩底再建:眼窩底骨折の外科的治療では、骨折部位の整復と眼窩底の再建が必要です。頬骨の眼窩面の正常な形態と位置を回復することが、眼球位置の正常化と複視の改善に不可欠です。再建材料としては、自家骨(腸骨、頭蓋骨など)や人工材料(チタンメッシュ、吸収性プレートなど)が用いられます(Ellis and Zide, 2017)。
- 画像診断:CTスキャン(特に冠状断と矢状断)は、頬骨の眼窩面の骨折、転位、眼窩内容物の脱出を評価する標準的な画像診断法です。3D再構成画像は骨折の全体像を把握し、手術計画を立てる上で有用です(Fonseca et al., 2017)。
参考文献