鼻骨 Os nasale
鼻骨は、顔面頭蓋の前方中央部に位置する対をなす骨です。その解剖学的特徴と臨床的意義は、以下の通りです(Gray and Lewis, 2016; Standring, 2020):
解剖学的特徴
- 形態:長方形に近い三角形の薄い骨で、左右が正中線で鼻骨間縫合を形成して、鼻背の骨格を構成します(Drake et al., 2019)。
- 位置関係:上方は前頭骨の鼻切痕と関節し、外側は上顎骨の前頭突起と接し、下方は外側鼻軟骨と連結しています(Moore et al., 2018)。
- 構造:上部が狭く、下部が広い台形様の形状で、厚さは平均1.5〜3mm程度です(Sinnatamby, 2011)。
- 表面形態:前面は軽度に膨隆し滑らかで、後面は陥凹して鼻腔の上部を形成します(Netter, 2018)。
- 神経支配:前面のほぼ中央に位置する鼻骨孔には、前篩骨神経の外鼻枝が通過し、鼻背の皮膚に感覚を供給します(Rohen et al., 2015)。
- 発生:膜性骨化(結合組織性骨化)によって形成され、胎生2ヶ月頃から骨化が始まります(Sadler, 2018)。
臨床的意義
- 外傷:顔面外傷で最も頻繁に骨折する部位の一つであり、鼻骨骨折は顔面骨折の約40%を占めます(Hwang et al., 2017)。
- 先天異常:まれに先天性鼻骨欠如症がみられ、鞍鼻(saddlenose deformity)の原因となることがあります(Cohen, 2014)。
- 手術的意義:美容整形や鼻中隔湾曲症の手術において重要な指標となります(Rohrich et al., 2016)。
- 画像診断:側面X線撮影や顔面CT検査で評価され、骨折の診断に重要です(Som and Curtin, 2011)。
鼻骨は顔面の中心的特徴を形成する重要な骨であり、その形態は人種間で大きな差異が認められます。日本人の鼻骨は欧米人と比較して、一般的に小さく、低いことが特徴とされています(Hanihara, 2000; 平田, 2000)。
人種差および比較解剖学
- 形態的変異:鼻骨の形状や大きさは人種間で顕著な差があり、これが顔貌の特徴に大きく影響します(Hanihara, 2000)。
- 進化的側面:ヒトの鼻骨の進化は直立二足歩行と関連し、気候適応の一環として形態が変化してきました(Franciscus and Trinkaus, 1988)。
- 環境適応:寒冷地域の人種は一般的に鼻骨が高く突出し、温暖地域の人種は平坦な傾向があります(Maddux et al., 2017)。
東洋医学的観点