鼻骨 Os nasale
鼻骨は、顔面頭蓋の前方中央部に位置する左右一対の小さな長方形の骨です。鼻背(鼻の骨性部分)の上部約3分の1を形成し、鼻の外形と機能において重要な役割を果たします(Gray and Lewis, 2016; Standring, 2020)。

J0044 (篩骨、垂直板:左方からの図)

J0049 (右鼻骨:外側からの図)
J0050 (右鼻骨:内側からの図)

J0051 (鋤骨:左方からの図)

J0054 (上顎骨:内面からの図)

J0088 (右側の側頭窩:外側からの図)

J0089 (右の翼口蓋窩、外側からの図)

J0095 (鼻腔の右側壁:左方からの図)

J0096 (鼻腔の右側壁:左方からの図)

J0097 (左方からの鼻腔、骨性鼻中隔)

J1000 (右眼窩の内容物:前方からの図)

J1068 (自由に剖出された外側の鼻の軟骨:右前方からの図)

J1070 (粘膜なしの鼻中隔:左方からの図)

J1071 (鼻中隔と粘膜:左方からの図)

J1072 (鼻腔の右壁と粘膜:左側からの図)
解剖学的特徴
基本形態と寸法
- 形状:長方形に近い台形状の薄い板状骨で、上部が狭く、下部がやや広い形態を呈します。平均的な大きさは、長さ約22-25mm、幅約8-12mm、厚さは1.5-3mm程度です(Drake et al., 2019; Sinnatamby, 2011)。
- 表面形態:外面(前面)は軽度に凸状を呈し、滑らかな表面を持ちます。内面(後面)は凹状で、篩骨の篩板(cribriform plate)の外側部と接し、鼻腔の上部外側壁の一部を形成します(Netter, 2018)。
- 鼻骨孔(foramen nasale):外面のほぼ中央、やや上方に位置する小孔で、前篩骨神経の外鼻枝(external nasal branch of anterior ethmoidal nerve)と小血管が通過します。この神経は鼻背の皮膚に感覚を供給します(Rohen et al., 2015; Moore et al., 2018)。
関節連結と縫合
- 上縁:前頭骨の鼻部(nasal part of frontal bone)と鼻前頭縫合(nasofrontal suture)を形成します。この縫合は通常、横走する直線状の形態を示します(Standring, 2020)。
- 外側縁:上顎骨の前頭突起(frontal process of maxilla)と鼻上顎縫合(nasomaxillary suture)で連結します。この縫合は鼻骨の外側全長にわたって走行します(Drake et al., 2019)。
- 内側縁:左右の鼻骨は正中線で鼻骨間縫合(internasal suture)を形成し、鼻背の正中部を構成します。この縫合の形態には個人差があり、直線状のものから鋸歯状のものまで様々です(Moore et al., 2018)。
- 下縁:外側鼻軟骨(lateral nasal cartilage、上外側鼻軟骨とも呼ばれる)と連結し、骨性鼻と軟骨性鼻の境界を形成します。この部分は触診で確認可能な解剖学的ランドマークとなります(Netter, 2018)。
- 後縁:篩骨垂直板(perpendicular plate of ethmoid bone)および鋤骨(vomer)の前上部と接し、骨性鼻中隔の前上部を構成します(Sinnatamby, 2011)。
血管分布
- 動脈供給:主に顔面動脈(facial artery)の枝である鼻背動脈(dorsal nasal artery)と、眼動脈(ophthalmic artery)の枝である前篩骨動脈(anterior ethmoidal artery)から血液供給を受けます(Moore et al., 2018)。
- 静脈還流:顔面静脈(facial vein)と眼静脈(ophthalmic vein)を経由して還流します。眼静脈は頭蓋内の海綿静脈洞(cavernous sinus)と交通するため、鼻部の感染が頭蓋内に波及する経路となり得る点で臨床的に重要です(Standring, 2020)。
神経支配
- 感覚神経:前篩骨神経(三叉神経第1枝である眼神経の枝)の外鼻枝が鼻骨孔を通過し、鼻背の皮膚に感覚を供給します(Rohen et al., 2015)。
- 臨床的意義:鼻骨骨折や鼻部の外傷により、この神経が損傷されると、鼻背の感覚異常(知覚鈍麻または知覚過敏)が生じることがあります(Drake et al., 2019)。