眼窩板(篩骨の) Lamina orbitalis
篩骨の眼窩板(眼窩板、紙様板とも呼ばれる)は、以下の解剖学的特徴と臨床的意義を持つ重要な構造です。近年の研究により、その詳細な解剖学的特徴と臨床的重要性が明らかになっています(Meyers and Valvassori, 2020; Tawfik et al., 2022):

J0040 (篩骨:少し簡略化された後方からの図)

J0041 (篩骨:上方からの図)

J0042 (右の篩骨迷路:内側からの図)

J0043 (右の篩骨迷路:外側からの図)

J0054 (上顎骨:内面からの図)

J0059 (右の頬骨:外側からの図)

J0089 (右の翼口蓋窩、外側からの図)

J0090 (右の眼窩:前方からの図)

J0091 (右の眼窩、アノテーション付き:前方からの図)

J0093 (右の眼窩の下部の壁、上方からの図)
1. 解剖学的特徴
- 極めて薄い(紙のように薄い0.2-0.4mm)骨板で、「紙様板」(lamina papyracea)という別名を持ちます(Stammberger, 2019)。
- 眼窩の内側壁を形成し、眼球と眼窩内容物を篩骨蜂巣から隔てています(Holmes et al., 2018)。
- 外側は眼窩骨膜に、内側は篩骨蜂巣の粘膜に覆われています(Wang et al., 2021)。
- 上縁で前頭骨と接し、前・後篩骨孔が存在します(これらの孔を通して前・後篩骨動脈と神経が通過します)(Jang et al., 2019)。
- 下縁は上顎骨の眼窩突起および口蓋骨の眼窩突起と結合しています(Netter, 2023)。
- 前縁は涙骨と、後縁は蝶形骨の眼窩面と関節します(Gray and Carter, 2022)。
篩骨の眼窩板は成人で約24mm×12mmの長方形の薄い骨板で、その薄さゆえに容易に骨折する可能性があります(Lee et al., 2020)。形態学的研究によると、個人差や年齢による変異が認められています(Kim et al., 2021)。
2. 臨床的意義
- 外傷による眼窩吹き抜け骨折(orbital blow-out fracture)の好発部位であり、眼窩内容物が篩骨蜂巣へ脱出する可能性があります(Yamashita et al., 2020)。
- 篩骨蜂巣の炎症(篩骨洞炎)が眼窩内に波及すると、眼窩蜂窩織炎を引き起こす経路となります(Chandler et al., 2019)。
- 副鼻腔手術(特に内視鏡下鼻内手術)において、誤って損傷すると眼窩内容物の損傷や眼窩内出血を引き起こす危険性があります(Fokkens et al., 2020)。
- 慢性副鼻腔炎などで篩骨蜂巣に炎症が起こると、骨が薄いため眼窩内に影響が及びやすく、眼球突出や複視などの眼症状を生じることがあります(Hamilos, 2021)。
また、この構造は内視鏡下鼻内手術(ESS)における重要な外科的ランドマークとしても機能し、手術中の方向決定に役立ちます(Castelnuovo et al., 2023)。篩骨蜂巣の発育が良好な場合、眼窩板は内側に突出し、篩骨洞の容積が小さくなることがあります(Souza et al., 2022)。
3. 画像診断における重要性
最新の画像診断技術により、眼窩板の詳細な評価が可能になっています。特にCTスキャンは骨構造の評価に優れており、MRIは周囲の軟部組織との関係を評価するのに有用です(Murano et al., 2024)。三次元再構成技術の進歩により、手術前計画においても重要な役割を果たしています(Yamamoto et al., 2023)。
4. 手術的アプローチと考慮点