鼓膜切痕 Incisura tympanica
鼓膜切痕は、側頭骨の鼓室部に存在する重要な解剖学的構造物です。その詳細な解剖学的特徴と臨床的意義は以下の通りです(Gray and Williams, 2000; Proctor, 2009):
解剖学的特徴:
- 大鼓室棘(Spina tympanica major)と小鼓室棘(Spina tympanica minor)の間に位置する半月状の陥凹構造です(Standring, 2016)。
- 鼓膜の上部に位置し、弛緩部(Pars flaccida)が付着する領域を提供します(Schuknecht, 1993)。
- 新生児では、まだ完全に骨化していない鼓室輪(Anulus tympanicus)の自由端上方に位置する裂け目として確認できます(Anson and Donaldson, 1981)。
- 成人では、側頭骨の鱗部(Pars squamosa)と岩部(Pars petrosa)の連結部近くに位置しています。
- この部位を介して、前上象限の鼓膜外側面と中耳腔が連絡しています(Gulya et al., 2010)。
臨床的意義:
- 鼓膜切痕は、Rivinus切痕とも呼ばれ(Eponym: Rivinus' notch)、耳科手術における重要な解剖学的ランドマークとなります(Brackmann et al., 2010)。
- この領域は鼓膜の弛緩部が付着する部位であり、真珠腫(cholesteatoma)形成の好発部位となることが知られています(Jackler and Brackmann, 2005)。
- 慢性中耳炎における真珠腫の発生機序として、鼓膜弛緩部がこの切痕部から内側に陥入することが挙げられます(Sudhoff and Tos, 2000)。
- 鼓室形成術や鼓膜形成術などの耳科手術において、この部位の解剖学的理解は手術成功の鍵となります(Bojrab et al., 2002)。
- 聴力検査における音伝導機構の理解にも重要な構造です(Merchant and Rosowski, 2003)。
参考文献:
- Anson, B.J. and Donaldson, J.A. (1981) 『側頭骨の外科解剖学』 — 耳科手術における側頭骨の詳細な解剖学的構造を解説した古典的名著
- Bojrab, D.I., Balough, B.J. and Abdul-Baqi, K.J. (2002) 『側頭骨外科アトラス』 — 耳科手術の詳細な手技と解剖学的知識を提供する実践的ガイド
- Brackmann, D.E., Shelton, C. and Arriaga, M.A. (2010) 『Otologic Surgery』 — 最新の耳科手術手技と解剖学的知識を包括的に解説した教科書
- Gray, H. and Williams, P.L. (2000) 『グレイ解剖学』 — 人体解剖学の基本的な参考書で鼓膜切痕についても詳細に記述
- Gulya, A.J., Minor, L.B. and Poe, D.S. (2010) 『Glasscock-Shambaugh 耳外科学』 — 耳の外科的疾患と手術について包括的に解説