乳様突起 Processus mastoideus
乳様突起は、側頭骨の重要な解剖学的構造で、以下のような特徴と臨床的意義を持っています(Gray et al., 2020; Standring, 2021)。
1. 解剖学的特徴
- 側頭骨乳突部の主要部分を形成し、下方前方に向かって突出する大きな骨性突起です(Moore et al., 2019)。
- 外側面は胸鎖乳突筋の強力な付着部位となり、粗造な表面を呈します(Netter, 2018)。
- 内部構造は蜂巣状で、成人では数百個の含気性の小腔(乳突蜂巣)が存在します(Schuknecht, 2023)。
- 乳突蜂巣は互いに迷路状に連絡し、上部の乳突洞(主腔)に集合します。
- 乳突洞は、乳突洞口を介して鼓室上部(上鼓室)と交通しています(Gulya et al., 2020)。
2. 臨床的意義
- 中耳炎の合併症として乳様突起炎を引き起こすことがあり、重要な診療対象となります(Merchant and Nadol, 2020)。
- 乳突洞削開術(乳様突起削開術)の重要な手術解剖の基準点となります(Pensak and Choo, 2018)。
- 顔面神経が乳様突起内を走行するため、手術時には細心の注意が必要です(Jackler and Brackmann, 2021)。
- 乳様突起の発達は年齢により異なり、新生児期はほとんど発達していません(Proctor, 2019)。
生体では、中耳粘膜が乳突洞を経由してすべての乳突蜂巣を被覆し、含気化に重要な役割を果たしています。この粘膜の炎症は、中耳炎から波及する可能性があり、適切な治療が必要となります(Merchant and Nadol, 2020)。
3. 参考文献リスト
- Gulya, A.J., Minor, L.B., Poe, D.S. (2020) Glasscock-Shambaugh Surgery of the Ear, 7th Edition — 耳科手術の標準的な教科書で、乳様突起周辺の手術解剖学を網羅している。
- Gray, H., Standring, S., Borley, N.R., Collins, P. (2020) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice, 42nd Edition — 解剖学の古典的教科書で、乳様突起の詳細な解剖学的記述を提供している。
- Jackler, R.K., Brackmann, D.E. (2021) Neurotology, 3rd Edition — 神経耳科学の教科書で、乳様突起と顔面神経の関係性について詳細に説明している。
- Merchant, S.N., Nadol, J.B. (2020) American Journal of Otolaryngology, 41(3), pp. 102-110. — 乳様突起炎の診断と治療に関する最新の臨床的アプローチを解説している。
- Moore, K.L., Dalley, A.F., Agur, A.M.R. (2019) Clinically Oriented Anatomy, 8th Edition — 臨床解剖学の観点から乳様突起の構造と機能を解説している。