蝶形骨 Os sphenoidale
蝶形骨は、頭蓋底の中央部に位置する複雑な無対性骨で、頭蓋の構造と機能において中心的な役割を果たしています (Gray et al., 2020)。その名称はギリシャ語の「σφήν (sphen)」に由来し、「楔(くさび)」を意味します。蝶が羽を広げたような形状を持つことから、蝶形骨と名付けられました。この骨は、脳神経や血管の通路として、また多くの筋肉の付着部として極めて重要な解剖学的構造です (Moore et al., 2022)。

J0023 (蝶形骨:上方からの図)

J0024 (蝶形骨:前方からの図)

J0025 (蝶形骨:後方からの図)

J0098 (14cm長(4ヶ月)胎児の内頭蓋底)
J0099 (18cm長(4ヶ月)胎児の内頭蓋底)
J0100 (12cm長(4ヶ月)胎児の内頭蓋底)
J0101 (14 cm長(4ヶ月)胎児の内頭蓋底)

J0102 (19cm長(5ヶ月の初め)胎児の内頭蓋底)
解剖学的構造の詳細
1. 体部(Corpus sphenoidale)
蝶形骨体は立方体状の構造で、頭蓋底の中心に位置します。以下の重要な構造を含みます:
- 蝶形骨洞(Sinus sphenoidalis)
- 体部内部にある含気腔で、左右に分かれています
- 蝶篩陥凹を通じて上咽頭に開口し、副鼻腔の一部を形成します (Standring, 2021)
- 洞の大きさには個人差が大きく、臨床的に重要です
- トルコ鞍(Sella turcica)
- 体部上面に位置する鞍状の陥凹で、下垂体を収容します
- 前方の鞍結節(Tuberculum sellae)と後方の背側面(Dorsum sellae)で囲まれています
- 下垂体窩(Fossa hypophysialis)は下垂体腺を保護し、その周囲は海綿静脈洞に囲まれています (Drake et al., 2019)
- 背側面の両側には後床突起(Processus clinoideus posterior)が突出します
- 前面は鋤骨および篩骨と関節し、鼻腔の後上部を形成します
2. 大翼(Ala major)
大翼は体部から外側・上方へ広がる大きな翼状の構造で、頭蓋底と頭蓋側面の両方に関与します (Gray et al., 2020):
- 頭蓋底面(Facies cerebralis)
- 脳の側頭葉を支持します
- 中頭蓋窩の外側部を形成します
- 外側面(Facies temporalis)
- 側頭筋の起始部となります
- 側頭下窩と側頭下稜を形成します (Netter, 2023)
- 重要な神経血管孔
- 正円孔(Foramen rotundum):上顎神経(V2)が通過します
- 卵円孔(Foramen ovale):下顎神経(V3)と副硬膜動脈が通過します
- 棘孔(Foramen spinosum):中硬膜動脈と中硬膜静脈が通過します
- これらの孔は、三叉神経の枝の通路として臨床的に極めて重要です (Moore et al., 2022)
- 眼窩面は外側眼窩壁の後部を形成します
- 上顎面は翼口蓋窩の後壁を形成します
3. 小翼(Ala minor)
小翼は体部の前上外側から水平に伸びる薄い三角形の骨板です (Gray et al., 2020):
- 構造的特徴
- 前頭骨と連結し、前頭蓋窩と中頭蓋窩の境界を形成します
- 前床突起(Processus clinoideus anterior)が後方に突出します
- 上面は前頭葉の一部を支持します
- 視神経管(Canalis opticus)
- 小翼の基部に位置する重要な孔です
- 視神経(CN II)と眼動脈が通過します (Sinnatamby, 2021)
- 臨床的に、視神経圧迫の評価において重要です