上項線;分界項線 Linea nuchalis superior

1. 解剖学的構造

上項線は、後頭骨の外後頭隆起(external occipital protuberance)から後頭側角(lateral angle of occipital bone)にかけて側方に伸びる隆起線です(Gray, 2020)。解剖学的には、頭蓋骨の後面に位置し、頭蓋底と頭蓋冠の境界となる重要な構造物です。

2. 筋肉付着部

筋肉付着部としては、上項線に以下の筋肉が付着しています(Standring, 2021):

  1. 僧帽筋(trapezius muscle):上項線の内側部に付着し、肩甲骨や鎖骨へと伸びる広い筋肉です。頭部の伸展や回旋、肩甲骨の挙上に関与します。
  2. 胸鎖乳突筋(sternocleidomastoid muscle):上項線の外側部に付着し、頭部の回旋や側屈を担います。
  3. 頭板状筋(splenius capitis muscle):上項線の中央部から外側部に付着し、頭部の伸展や回旋に関与します(Moore et al., 2022)。

3. 解剖学的特徴

解剖学的特徴として、上項線は外後頭隆起の真下で外後頭稜(external occipital crest)に達し、この交点をイニオン(inion)と呼びます(Netter, 2019)。イニオンは頭蓋計測学上の重要な標識点であり、頭蓋の形態評価や人類学的研究において基準点として用いられます。

4. 臨床的意義

臨床的意義としては、上項線は後頭神経(greater occipital nerve)が通過する領域の近くに位置し、後頭神経痛や頭部外傷の評価において重要な解剖学的指標となります(Tubbs et al., 2018)。また、後頭部の筋緊張性頭痛(tension headache)や後頭神経痛(occipital neuralgia)の症状が上項線周辺に現れることがあり、触診による評価が診断の一助となります。X線撮影やCT、MRIなどの画像診断においても、上項線は後頭骨の形態評価において重要な指標となります(Dougherty and Hackney, 2019)。

5. 解剖学的変異

上項線の形態や発達度合いは個体差が大きく、特に筋肉の発達度合いによって変化します(Tubbs et al., 2018)。また、人種間や性別間での形態差も報告されており、法医学的識別の一助となることがあります(Buikstra and Ubelaker, 2023)。

6. 進化的観点

系統発生学的には、上項線は直立二足歩行への適応に伴い、頭部支持機構の一部として進化してきたと考えられています(Lieberman et al., 2020)。霊長類との比較解剖学的研究によれば、人類特有の頭蓋形態との関連が指摘されています。

7. 画像診断的意義

放射線学的には、上項線は頭蓋底の評価において重要な指標となります。特にCT画像では骨性構造として明瞭に描出され、頭蓋底骨折や先天性奇形の診断に役立ちます(Harnsberger et al., 2022)。

参考文献