前頭縫合遺残 Sutura frontalis persistens
前頭縫合(メトピック縫合、sutura metopica)は、前頭骨の発生学的由来を示す重要な解剖学的構造であり、臨床医学において多様な意義を持ちます。本項では、その解剖学的特徴、発生学的背景、臨床的意義、および画像診断上の重要性について詳述します(Skrzat et al., 2004; Nikolova et al., 2017; Zdilla et al., 2018)。

J0035 (前頭骨:前方からの図)

J1068 (自由に剖出された外側の鼻の軟骨:右前方からの図)
1. 解剖学的特徴と発生学
1.1 発生学的背景
前頭骨は胎生期において左右2つの骨原基から独立して発生し、膜性骨化(intramembranous ossification)によって形成されます。これらの骨原基は正中線上で接合し、その接合部位が前頭縫合となります(Weinzweig et al., 2003)。この縫合は、鼻根部(nasion)から前頭骨の最上部(bregma)まで正中線上を走行します。
1.2 縫合の閉鎖過程
- 前頭縫合の癒合は通常、生後1~2年で始まり、多くの場合5~6歳までに完全に閉鎖します(Weinzweig et al., 2003)。
- しかし、約8%の成人において部分的または完全に縫合が残存することが報告されており、この出現頻度には人種差が認められます(Nikolova et al., 2017)。
- アフリカ系集団では残存率が低く(1~3%)、ヨーロッパ系集団では中程度(5~10%)、アジア系集団では比較的高い傾向があります(Hanihara and Ishida, 2001)。
1.3 解剖学的走行と形態
前頭縫合が残存する場合、以下の解剖学的特徴を示します:
- 走行:鼻根部(nasion)から前頭部の最上部(bregma)まで正中線上を縦走します。
- 最も顕著な部位:前頭鱗の下部、特に眉間部(glabella)において明瞭に観察されることが多いです。
- 縫合の形態:通常は直線状ですが、わずかに蛇行することもあります(Skrzat et al., 2004)。
- 幅:個体差がありますが、通常1~2mm程度の線状構造として認識されます。
2. 分類と解剖学的変異
2.1 残存パターンによる分類
前頭縫合の残存は、その程度によって以下のように分類されます(Skrzat et al., 2004; Zdilla et al., 2018):
- 完全型(Complete type):nasionからbregmaまで連続して残存するもの。成人における前頭縫合残存の約60~70%がこの型に該当します。