前頭骨 Os frontale
前頭骨は、頭蓋骨の前部を形成する重要な単一の骨で、脳の前部を保護し、顔の上部の構造を支える役割を担っています(Gray et al., 2020)。解剖学的および臨床的に重要な以下の特徴があります:
解剖学的特徴
- 解剖学的位置:額(前額部)と眼窩上部を形成し、顔面頭蓋と脳頭蓋の境界に位置しています(Moore et al., 2018)。
- 発生学的特徴:胎生期には左右の半部(前頭骨片)が存在し、出生後2年までに正中線上で癒合して単一の骨となります(前頭縫合)(Sadler, 2019)。
- 臨床的意義:前頭縫合の癒合不全(持続性前頭縫合)は約8%の成人に見られる変異です(Shapiro and Robinson, 2019)。
解剖学的構造
- 解剖学的な面:
- 外面(前頭鱗部):前方に膨隆し、前頭結節(tuber frontale)を形成、側頭線により側頭窩から区別されます(Standring, 2021)。
- 内面(大脳面):凹面で前頭葉を収容し、特徴的な指圧痕(impressiones digitatae)、脳隆起(juga cerebralia)、動脈溝(中硬膜動脈溝)が存在します(Standring, 2021)。
- 眼窩面:眼窩上壁を形成し、上外側に涙腺窩(fossa glandulae lacrimalis)があります(Netter, 2018)。
- 前頭洞:前頭骨内の含気腔で、額部と眼窩上部に位置し、臨床的に前頭洞炎や外傷(前頭洞骨折)の原因となることがあります(Schünke et al., 2020)。
神経血管構造
前頭骨には以下のような重要な神経血管構造の通路があります(Drake et al., 2019):
- 眼窩上孔/切痕(foramen/incisura supraorbitalis):眼窩上神経・動静脈が通過し、上眼瞼と前頭部の感覚を支配します。
- 前頭孔/切痕(foramen/incisura frontalis):前頭神経・血管の通路となります。
- 滑車上孔/切痕(foramen/incisura supratrochlearis):滑車上神経の通路で、眼瞼内側部と鼻根部の感覚を支配します。
- 滑車棘(spina trochlearis):上斜筋の腱性滑車(trochlea)が付着する小突起で、眼球運動に関与します。
- 前篩骨孔(foramen ethmoidale anterius):前篩骨神経と前篩骨動静脈が通過し、鼻腔上部と前頭洞の感覚および血液供給に関与します。
臨床的意義
臨床的に重要なのは、前頭骨骨折(特に前頭洞を含む場合)は脳脊髄液漏や髄膜炎のリスクを伴うこと、また、前頭部の外傷は美容的問題だけでなく、認知機能や感情表現に影響を与える可能性がある前頭葉損傷を伴うことがあります(Gentry et al., 2018)。
参考文献
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2019) Gray's Anatomy for Students. 4th ed. Philadelphia: Elsevier.