前篩骨孔 Foramen ethmoidale anterius
前篩骨孔は、頭蓋底の重要な解剖学的構造であり、以下のような詳細な特徴を持ちます (Lang and Keller, 1980; Lang, 1989):
解剖学的位置と構造
- 篩骨眼窩板(篩骨迷路の外側板)の上縁と前頭骨眼窩部の間に形成される孔です (Erdogmus and Govsa, 2006)
- 通常、前頭篩骨縫合上またはその近傍に位置し、前篩骨切痕とも呼ばれます (Arora et al., 2016)
- 眼窩内側壁の上部に開口部があり、篩骨蜂巣を通って前頭蓋窩へと通じています (Stammberger et al., 1991)
- 前頭骨と篩骨が接する前頭篩骨縫合線上に存在し、両骨の切痕によって完成される構造です (Lee et al., 2000)
通過する構造物
- 前篩骨神経(眼神経の鼻毛様体神経の分枝)が通過します (Moon et al., 2001)
- 前篩骨動脈(眼動脈の分枝)が通り、鼻腔と硬膜の血液供給に関与します (Stammberger et al., 1991; Moon et al., 2001)
- 前篩骨静脈も伴走し、眼静脈系と頭蓋内静脈系を連絡します (Souza et al., 2009)
臨床的意義
- 内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)における重要な解剖学的ランドマークとなります (Stammberger and Kennedy, 1995)
- 前篩骨動脈の損傷は重篤な出血を引き起こす可能性があり、手術時に注意が必要です (Kainz and Stammberger, 1992)
- 前頭蓋底手術や経鼻的頭蓋底手術において重要な指標となります (Simmen et al., 2006)
- 前篩骨神経ブロックは、前頭洞や篩骨洞の疼痛管理に用いられることがあります (Douglas and Wormald, 2006)
解剖学的変異
日本人の頭蓋骨における研究では、前篩骨孔の位置に顕著な変異が報告されています。約30.7%の頭蓋で前篩骨孔が前頭篩骨縫合よりも上方に位置し、側面的には約23.2%でこの変異が観察されています (Takahashi et al., 2011)。この解剖学的変異は手術計画において考慮すべき重要な点です。また、前篩骨孔は時に二重孔として存在することもあり、これは前篩骨動脈と神経が別々の孔を通過する変異です (Cankal et al., 2004)。
参考文献
- Arora, S., Aggarwal, R., Chhabra, U. and Garg, L. (2016) 'Anterior ethmoidal foramen: An anatomical study', International Journal of Anatomy and Research, 4(1), pp. 1912-1915.