眼窩下部 Regio infraorbitalis

眼窩下部(がんかかぶ)は、眼窩の下縁から下方に位置する顔面の重要な解剖学的領域であり、感覚神経や血管の通路として機能するとともに、顔貌の形成に大きく寄与する部位です (Standring, 2020)。この領域は上顎骨の前面と頬骨の一部によって構成され、眼窩下孔を中心とした複雑な神経血管構造を含んでいます (Drake et al., 2019)。

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J0390 (人体の部位:頭部と頚部)

解剖学的構造

骨構造

眼窩下部の骨格は主に上顎骨前面(facies anterior maxillae)と頬骨(os zygomaticum)の内側部によって形成されます (Moore et al., 2018)。上顎骨の眼窩下縁(margo infraorbitalis)は眼窩底の前縁を構成し、この下方約5-10mmの位置に眼窩下孔(foramen infraorbitale)が開口しています (Sinnatamby, 2011)。眼窩下孔は通常、上顎第二小臼歯の根尖の垂直線上またはやや内側に位置し、その正確な位置は民族や個体によって若干の変異があります (Aziz et al., 2000)。

眼窩下孔は眼窩下管(canalis infraorbitalis)の前方開口部であり、この管は眼窩下溝(sulcus infraorbitalis)から連続しています (Standring, 2020)。眼窩下管の長さは平均8-10mmで、前下内側方向に走行します (Kazkayasi et al., 2001)。

神経血管構造

眼窩下神経(nervus infraorbitalis)は三叉神経第2枝である上顎神経(nervus maxillaris, V2)の最終枝であり、眼窩下孔を通って顔面に出現します (Netter, 2018)。眼窩下孔を出た後、この神経は放射状に3つの主要な枝に分かれます (Williams et al., 1995):

眼窩下神経の支配領域は顔面中部の広範な領域に及び、下眼瞼から上唇、鼻翼に至る皮膚の感覚を担当します (Drake et al., 2019)。この神経は歯科麻酔において重要であり、上顎の前歯から小臼歯、さらに上顎洞粘膜や歯肉への感覚枝も分岐します (Malamed, 2019)。

眼窩下動脈(arteria infraorbitalis)は上顎動脈(arteria maxillaris)の枝であり、眼窩下神経とともに眼窩下管を通過します (Standring, 2020)。眼窩下孔から出現した後、眼窩下動脈は眼窩下神経の各枝に伴行する細い枝に分かれ、下眼瞼、鼻の外側、上唇への血液供給を行います (Netter, 2018)。また、眼窩下動脈は上前歯槽動脈(arteriae alveolares superiores anteriores)を分岐し、上顎前歯部の歯と歯槽骨への血液供給にも関与します (Moore et al., 2018)。

眼窩下静脈(vena infraorbitalis)は眼窩下動脈に伴行し、顔面静脈(vena facialis)または翼突筋静脈叢(plexus pterygoideus)に注ぎます (Standring, 2020)。この静脈系は眼静脈を介して海綿静脈洞(sinus cavernosus)と交通しており、顔面の感染が頭蓋内に波及する経路となりえます (Drake et al., 2019)。

軟部組織構造

眼窩下部の軟部組織は皮膚、皮下組織、筋膜、表情筋、そして脂肪組織から構成されます。この領域には以下の表情筋が存在します (Gray, 1918; Standring, 2020):