乳様突起部 Regio mastoidea
乳様突起部は、頭蓋骨の側頭骨に属する重要な解剖学的構造であり、臨床医学において多様な意義を持つ領域です。本項では、解剖学的特徴、周囲構造との関連、臨床的意義について、最新の研究知見に基づいて詳述します(Gray and Standring, 2020; Standring, 2021)。

J0026 (右の側頭骨:外側からの図)

J0027 (側頭骨:内上方からの図)

J0028 (右の側頭骨:下方からの図)

J0085 (内頭蓋底、アノテーション付き)

J0390 (人体の部位:頭部と頚部)

J0392 (人体の部位:背面図)
1. 解剖学的構造と特徴
基本的位置関係
- 別名:乳突部(Pars mastoidea)、乳様突起(Processus mastoideus)
- 位置:耳介(外耳孔部)の後下方に位置し、皮膚表面から触診で容易に確認できる円錐状の骨性突起(Netter, 2019)
- 所属:側頭骨(Os temporale)の乳様部(Pars mastoidea)に属する
- 発生学的特徴:出生時には未発達であり、生後2歳頃から含気化が進行し、思春期までに完全に発達する(Moore et al., 2018)
内部構造
- 乳様蜂巣(Mastoid air cells):
- 乳様突起内部には、多数の含気腔である乳様蜂巣が存在する
- これらの含気腔は、中耳腔と連絡しており、鼓室洞(Antrum mastoideum)を介して鼓室に開口する
- 含気化の程度には個人差が大きく、高度に含気化したもの(pneumatic type)から、緻密骨が優勢なもの(sclerotic type)まで存在する(Gulya et al., 2019)
- 乳様洞(Antrum mastoideum):
- 乳様突起内で最大の含気腔で、中耳腔の後方延長部
- 鼓室洞入口(Aditus ad antrum)を介して鼓室上陥凹(Recessus epitympanicus)と連絡する
- 手術における重要なランドマークとなる(Roland and Marple, 2021)
表面解剖
- 外側面:
- 後頭筋(Musculus occipitalis)の一部が付着する
- 皮下に浅在性に位置し、触診が容易である
- 内側面:
- S状静脈洞溝(Sulcus sinus sigmoidei)が走行し、S状静脈洞を収容する
- 顔面神経管(Canalis facialis)が乳様突起内部を下行する
- 下端部:
- 胸鎖乳突筋(Musculus sternocleidomastoideus)の起始部となる
- 後頭筋腹(Venter posterior musculi digastrici)も付着する
2. 周囲の関連構造
神経構造
- 顔面神経(Nervus facialis、第VII脳神経):
- 顔面神経管内を下行し、乳様突起の前内側を通過する
- 茎乳突孔(Foramen stylomastoideum)から頭蓋外に出る
- 乳様突起手術時に損傷のリスクがある重要な構造(Gulya et al., 2019)
- 顔面神経の垂直部(Vertical segment)は、鼓室の内側壁に位置し、乳様洞開放術の際の重要なランドマークとなる
血管構造