頭頂部 Regio parietalis
頭頂部(regio parietalis)は、体表解剖学における頭部の一領域であり、頭頂骨(os parietale)に対応する体表部位を指します。この領域は頭蓋冠(calvaria)の上部を構成し、解剖学的および臨床的に重要な意義を持ちます(Standring, 2021; Moore et al., 2018)。

J0390 (人体の部位:頭部と頚部)

J0391 (人体の部位:前面図)

J0392 (人体の部位:背面図)
解剖学的特徴
頭頂部の解剖学的特徴は以下のように詳述されます:
- **位置と境界:**頭頂部は頭蓋冠の最上部に位置し、前方は冠状縫合(sutura coronalis)、後方はラムダ縫合(sutura lambdoidea)、側方は上側頭線(linea temporalis superior)によって境界づけられます。前頭部(regio frontalis)の後方、後頭部(regio occipitalis)の前方に位置します(Standring, 2021; Sinnatamby, 2011)。頭頂部の体表投影は、頭蓋計測における重要な指標点であり、頭蓋長(距離 glabella-opisthocranion)および頭蓋幅(距離 euryon-euryon)の測定に用いられます(White et al., 2012)。
- **骨学的構造:**左右一対の頭頂骨(ossa parietalia)に対応し、正中線上で矢状縫合(sutura sagittalis)によって結合されています。頭頂骨は扁平骨であり、外板(lamina externa)、板間層(diploe)、内板(lamina interna)の三層構造を持ちます(Netter, 2019; Gray, 2021)。頭頂骨の内面には、上矢状静脈洞溝(sulcus sinus sagittalis superioris)が走行し、その両側には顆粒窩(foveolae granulares)が認められます。これらはクモ膜顆粒(granulationes arachnoideales, Pacchioni顆粒)の圧痕であり、脳脊髄液の再吸収に関与する構造です(Rhoton, 2007; Standring, 2021)。頭頂骨の外面は滑らかであり、上側頭線(linea temporalis superior)と下側頭線(linea temporalis inferior)が認められ、側頭筋(musculus temporalis)の起始部となります(Moore et al., 2018)。
- **軟部組織の層構造:**頭頂部の軟部組織は、表層から深層へと以下の五層で構成され、その頭文字をとってSCALPと呼ばれます(Drake et al., 2020; Moore et al., 2018):
- S: 皮膚(Skin, cutis):厚く、多数の毛包(folliculi pili)、脂腺(glandulae sebaceae)、汗腺(glandulae sudoriferae)を含みます。皮膚の厚さは約3-8mmであり、身体の他の部位と比較して厚い部類に属します(Standring, 2021)。
- C: 皮下組織(Connective tissue, tela subcutanea):密な線維結合組織であり、豊富な血管網と神経を含みます。この層は皮膚と帽状腱膜を強固に結合させており、頭皮の可動性を制限しています(Moore et al., 2018)。血管は垂直に走行し、損傷時には血管収縮が困難なため、頭皮創傷では出血が持続しやすいという臨床的特徴があります(Greenberg, 2016)。
- A: 帽状腱膜(Aponeurosis, galea aponeurotica):前頭後頭筋(musculus occipitofrontalis)の前頭腹(venter frontalis)と後頭腹(venter occipitalis)を連結する強靭な腱膜層です。この層は頭蓋冠全体を覆い、側方では側頭筋膜(fascia temporalis)と連続します(Standring, 2021)。
- L: 疎性結合組織層(Loose connective tissue, spatium subgaleale):帽状腱膜と頭蓋骨膜の間に存在する疎な結合組織層であり、頭皮の可動性を可能にします。この層は「危険領域(danger zone)」とも呼ばれ、感染や血腫が広範囲に拡大しやすいという臨床的特徴があります(Drake et al., 2020; Greenberg, 2016)。疎性結合組織層は、導出静脈(venae emissariae)を介して頭蓋内静脈洞と交通するため、頭皮感染が頭蓋内に波及する経路となりえます(Moore et al., 2018)。
- P: 頭蓋骨膜(Pericranium):頭蓋骨外板を覆う骨膜であり、縫合部において骨と強固に癒合しています。骨膜は骨の栄養と再生に重要な役割を果たし、骨折治癒過程においても不可欠です(Standring, 2021)。
- **血管支配:**頭頂部の動脈血供給は、外頸動脈(arteria carotis externa)の枝である浅側頭動脈(arteria temporalis superficialis)の頭頂枝(rami parietales)、後頭動脈(arteria occipitalis)、および眼動脈(arteria ophthalmica)の枝である滑車上動脈(arteria supratrochlearis)と眼窩上動脈(arteria supraorbitalis)によって行われます(Standring, 2021; Netter, 2019)。これらの動脈は豊富な吻合を形成し、頭皮の血流を保証しています。静脈還流は、同名の静脈(浅側頭静脈 vena temporalis superficialis、後頭静脈 vena occipitalis など)を経て外頸静脈系へ流入するほか、導出静脈(venae emissariae)を介して頭蓋内の上矢状静脈洞(sinus sagittalis superior)などの硬膜静脈洞と交通します(Moore et al., 2018; Rhoton, 2007)。この静脈交通は、頭皮感染から海綿静脈洞血栓症(thrombosis sinus cavernosi)などの頭蓋内合併症が生じうる解剖学的基盤となります(Greenberg, 2016)。
- **神経支配:**頭頂部の感覚神経支配は、三叉神経(nervus trigeminus, CN V)の眼神経枝(nervus ophthalmicus, V1)の滑車上神経(nervus supratrochlearis)および眼窩上神経(nervus supraorbitalis)、ならびに頚神経叢(plexus cervicalis)由来の大後頭神経(nervus occipitalis major, C2)および小後頭神経(nervus occipitalis minor, C2, C3)によって行われます(Moore et al., 2018; Standring, 2021)。前頭部から頭頂部前方にかけては三叉神経支配、頭頂部後方から後頭部にかけては頚神経叢支配となります。大後頭神経は第2頚椎(C2)の後枝であり、後頭下三角(trigonum suboccipitale)を通過した後、僧帽筋(musculus trapezius)を貫いて頭皮に到達します(Standring, 2021)。大後頭神経の障害や刺激は、後頭神経痛(neuralgia occipitalis)の原因となります(Haldeman and Dagenais, 2001)。
- **リンパ排液:**頭頂部のリンパ液は、後頭リンパ節(nodi lymphoidei occipitales)および後耳介リンパ節(nodi lymphoidei retroauriculares)を経て、頚部深リンパ節(nodi lymphoidei cervicales profundi)へ排液されます(Standring, 2021)。
発生学的側面
頭頂骨は膜性骨化(ossificatio membranacea)によって形成される膜性骨(os membranaceum)です(Sadler, 2019; Moore and Persaud, 2020)。胎生期において、頭頂骨は2つの骨化中心(中心 ossificationis)から発生し、出生時には矢状縫合で分離されています。頭頂骨間の縫合は、大泉門(fonticulus anterior, bregma)、小泉門(fonticulus posterior, lambda)、前側頭泉門(fonticulus anterolateralis, pterion)、後側頭泉門(fonticulus posterolateralis, asterion)を形成します(Moore and Persaud, 2020)。大泉門は通常生後18-24ヶ月で閉鎖し、小泉門は生後2-3ヶ月で閉鎖します(Kiesler and Ricer, 2003)。泉門の異常な拡大や閉鎖遅延は、水頭症(hydrocephalus)、くる病(rachitis)、甲状腺機能低下症(hypothyreosis)などの全身疾患を示唆する可能性があります(Moore and Persaud, 2020)。
臨床的意義
頭頂部は以下のような臨床的重要性を持ちます:
- **外傷:**頭頂部は頭部外傷(trauma cranii)の好発部位であり、直達外力による頭蓋骨骨折(fractura cranii)が生じやすい領域です(Greenberg, 2016)。頭蓋骨骨折は、線状骨折(fractura linearis)、陥没骨折(fractura depressa)、粉砕骨折(fractura comminuta)に分類されます(Rhoton, 2007)。線状骨折は最も頻度が高く、通常は保存的治療が可能ですが、骨折線が中硬膜動脈(arteria meningea media)の走行部位を横切る場合、硬膜外血腫(haematoma epidurale)のリスクが高まります(Greenberg, 2016)。陥没骨折は、骨片が頭蓋骨の厚さ以上に陥没したものと定義され、脳実質の損傷や硬膜損傷を伴う可能性があり、外科的整復が必要となることがあります(Greenberg, 2016)。頭頂部外傷に伴う頭蓋内血腫には、硬膜外血腫(haematoma epidurale)、急性硬膜下血腫(haematoma subdurale acutum)、慢性硬膜下血腫(haematoma subdurale chronicum)、脳挫傷(contusio cerebri)などがあり、神経学的評価と画像診断(CTまたはMRI)による迅速な診断が重要です(Greenberg, 2016; Osborn et al., 2018)。
- **頭皮裂創:**頭頂部の頭皮裂創(laceratio corii capitis)は、豊富な血管網のため著しい出血を伴います。皮下組織層の線維性結合が血管収縮を妨げるため、止血には直接圧迫や縫合による創縁の近接が必要です(Moore et al., 2018; Greenberg, 2016)。疎性結合組織層(spatium subgaleale)での血腫形成は広範囲に及ぶ可能性があり、特に乳幼児では大量の血液喪失による循環動態の不安定化に注意が必要です(Greenberg, 2016)。
- **神経学的関連:**頭頂骨の直下には頭頂葉(lobus parietalis)が位置します。頭頂葉は、一次体性感覚野(area somatosensorica primaria, S1, Brodmann 3, 1, 2野)、二次体性感覚野(area somatosensorica secundaria, S2)、および体性感覚連合野(areae somatosensoricae associativae, Brodmann 5, 7野)を含み、触覚、圧覚、温度覚、痛覚、固有感覚などの体性感覚処理に関与します(Kandel et al., 2021; Crossman and Neary, 2015)。一次体性感覚野は中心後回(gyrus postcentralis)に位置し、対側の身体からの感覚情報を体性局在的(somatotopisch)に受容します。この体性局在は「感覚ホムンクルス(homunculus sensorius)」として表現され、顔面、上肢、特に手指および口唇領域が広い皮質表現を持ちます(Penfield and Rasmussen, 1950; Kandel et al., 2021)。
頭頂葉の上頭頂小葉(lobulus parietalis superior, Brodmann 5, 7野)は、複雑な体性感覚統合、視空間認知、身体図式(schema corporis)の形成に関与します(Kandel et al., 2021)。下頭頂小葉(lobulus parietalis inferior)は、優位半球(通常は左半球)では縁上回(gyrus supramarginalis, Brodmann 40野)と角回(gyrus angularis, Brodmann 39野)を含み、言語処理、読字、計算、左右識別などの高次認知機能に関与します(Crossman and Neary, 2015)。非優位半球(通常は右半球)の下頭頂小葉は、空間認知と注意機能に関与します(Kandel et al., 2021)。
頭頂葉の損傷は、その部位に応じて多様な神経症候を引き起こします(Brazis et al., 2011):