下腿 Crus
下腿とは、人間の体の一部で、膝関節から足関節(距腿関節)までの部分を指します。解剖学的には脛骨と腓骨の2本の長管骨を軸として構成され、周囲に筋肉、血管、神経、靭帯などの軟部組織が配置されています(Gray, 2020; Moore et al., 2018)。
解剖学的構造
骨学的構造
脛骨(Tibia)は内側に位置する太い骨で、体重を支える主要な役割を担います。近位端は膝関節を形成し、遠位端は内果(medial malleolus)として触知できます。腓骨(Fibula)は外側に位置する細い骨で、遠位端は外果(lateral malleolus)を形成します。両骨間には骨間膜(interosseous membrane)が存在し、前後の区画を分ける役割があります(Standring, 2021)。
筋肉構造
下腿は機能的に前方区画、外側区画、後方区画の3つに分けられます(Netter, 2019):
- 前方区画:前脛骨筋、長趾伸筋、長母趾伸筋、第三腓骨筋(足関節の背屈と足趾の伸展)
- 外側区画:長腓骨筋、短腓骨筋(足の外転と回外)
- 後方区画:腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋(足関節の底屈と足趾の屈曲)
神経支配
- 前方区画:深腓骨神経(L4-S1)
- 外側区画:浅腓骨神経(L5-S2)
- 後方区画:脛骨神経(L4-S3)
血管系
主要動脈は後脛骨動脈と前脛骨動脈で、腓骨動脈はこれらから分岐します。静脈系は大伏在静脈(内側)と小伏在静脈(後外側)の表在静脈系と、深部静脈系があります(Drake et al., 2019)。
臨床的意義
下腿は外傷を受けやすい部位であり、脛骨骨幹部骨折、コンパートメント症候群、アキレス腱断裂などが生じやすい領域です。また、下腿三頭筋(腓腹筋とヒラメ筋)は歩行時の推進力を生み出す重要な筋肉群です。深部静脈血栓症(DVT)も臨床的に重要な下腿の病態です(Bickley, 2021; Kumar et al., 2018)。
参考文献
- Gray, H. (2020). Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. 42nd ed. — 下腿の解剖学的構造に関する包括的な情報を提供する基本的な医学書
- Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R. (2018). Clinically Oriented Anatomy. 8th ed. — 臨床的視点から下腿の解剖学を詳細に解説
- Standring, S. (2021). Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. 43rd ed. — 下腿の骨学的構造と機能的関連性を詳述
- Netter, F.H. (2019). Atlas of Human Anatomy. 7th ed. — 下腿の解剖学的構造を詳細な図版で解説する定評ある医学書
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2019). Gray's Anatomy for Students. 4th ed. — 医学生向けに下腿の血管系と神経系を簡潔に解説