下肢 Membrum inferius; Extremitas inferior
下肢は人体の下半身を構成する解剖学的領域であり、上肢と共に付属肢(extremitas)と呼ばれます。下肢は以下の主要部位から構成されます(Gray and Lewis, 2020):
- 骨盤部(Regio pelvica):寛骨(Os coxae)を含む領域
- 大腿部(Femur):股関節から膝関節までの部位
- 下腿部(Crus):膝関節から足関節までの部位
- 足部(Pes):足関節より遠位の部位
解剖学的構造:
- 骨格系:下肢骨格は全身骨格の約35%を占め、以下の部分から構成されます(Standring, 2021)
- 下肢帯/骨盤帯(Cingulum membri inferioris/Cingulum pelvicum):左右の寛骨と仙骨、尾骨により骨盤(Pelvis)を形成
- 自由下肢骨(Skeleton membri inferioris liberi):大腿骨(Femur)、膝蓋骨(Patella)、脛骨(Tibia)、腓骨(Fibula)、足部骨(足根骨[Ossa tarsi]、中足骨[Ossa metatarsi]、指骨[Phalanges])
- 関節系:股関節(Articulatio coxae)、膝関節(Articulatio genus)、脛腓関節(Articulatio tibiofibularis)、足関節(Articulatio talocruralis)、足部の多数の関節(Neumann, 2017)
- 筋肉系:約60の筋が存在し、以下のように区分されます(Moore et al., 2018)
- 腸腰筋群(大腰筋、腸骨筋):股関節の屈曲
- 殿筋群(大殿筋、中殿筋、小殿筋):股関節の伸展と安定化
- 大腿筋群(大腿四頭筋、ハムストリングス):膝関節の伸展と屈曲
- 下腿筋群(腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋など):足関節と足趾の運動
- 足内在筋(足底筋、虫様筋など):足趾の細かい運動
- 神経支配:腰神経叢(L1-L4)と仙骨神経叢(L4-S3)からの枝(Drake et al., 2019)
- 主要な神経:大腿神経、閉鎖神経、坐骨神経(脛骨神経と総腓骨神経に分岐)
- 血管系:
- 動脈:外腸骨動脈→大腿動脈→膝窩動脈→前後脛骨動脈
- 静脈:大伏在静脈、小伏在静脈などの表在静脈と、深部静脈系
- リンパ:鼠径リンパ節を経由して腸骨リンパ節へ
機能的特徴:
- 生体力学的に体重支持と推進力生成の二重機能を担い、上肢より強靭だが可動域は制限されています(Nordin and Frankel, 2012)
- 二足歩行に適応した特殊な構造を持ち、大腿骨頭の内方傾斜、膝の伸展位でのロック機構、足のアーチ構造などが特徴的です
- 静的姿勢(立位)と動的機能(歩行、走行、跳躍)の両方を可能にします
臨床的意義:
- 股関節症、変形性膝関節症、足部変形などの整形外科的疾患が高頻度で発生します(Firestein et al., 2016)
- 深部静脈血栓症(DVT)やリンパ浮腫などの血管・リンパ系疾患のリスクがあります
- 坐骨神経痛などの神経障害が生じることがあります