前腕 Antebrachium

1. 解剖学的定義と構造

前腕(Antebrachium)とは、上肢の肘関節(articulatio cubiti)と手首の関節(articulatio radiocarpalis)の間の部分を指します(Moore et al., 2018)。前腕は尺骨(ulna)と橈骨(radius)の2本の長管骨で構成されており、これらの骨の間には骨間膜(membrana interossea)が存在します。

2. 解剖学的区分と筋肉

解剖学的に前腕は前面(掌側面:anterior/volar)と後面(背側面:posterior/dorsal)に分けられます(Standring, 2020)。筋肉構成は機能的に屈筋群(前面)と伸筋群(後面)に分類されます。

2.1 屈筋群(前面)

屈筋群には円回内筋、橈側手根屈筋、長掌筋、尺側手根屈筋、浅指屈筋、深指屈筋などが含まれます(Netter, 2019)。

2.2 伸筋群(後面)

伸筋群には腕橈骨筋、長・短橈側手根伸筋、総指伸筋、小指伸筋、尺側手根伸筋などが含まれます(Drake et al., 2019)。

3. 神経・血管分布

前腕には主要な神経として正中神経(nervus medianus)、尺骨神経(nervus ulnaris)、橈骨神経(nervus radialis)が分布し、血管系は橈骨動脈(arteria radialis)と尺骨動脈(arteria ulnaris)およびそれらに伴走する静脈が存在します(Clemente, 2010)。

4. 臨床的意義

臨床的には、コーレス骨折(Colles' fracture)、モンテギア骨折(Monteggia fracture)、ガレアッチ骨折(Galeazzi fracture)などの前腕骨折や、コンパートメント症候群、腱鞘炎(de Quervain病など)、尺骨神経麻痺、正中神経麻痺(手根管症候群)などの疾患が重要です(Solomon et al., 2021)。また、前腕は採血や動脈ラインの確保、血圧測定など医療処置の重要な部位でもあります。

参考文献