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目次(I.骨格系)

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1対の種子骨—すなわちの末端部や関節包の壁の中に埋もれている小さい骨—が母指の中手指節関節に常在する。他の指の同じ位置では、示指と小指に最も頻繁に種子骨が認められる。ただし、これらの指では2つではなく1つだけ存在することもある。

Galenosは母指中手骨 Os metacarpeum pollicis を母指の基節骨と考えた。Vesaliusをはじめ多くの学者もこれに同意した。発生学的にも、人の第1中手骨は基節骨のような特徴を示す。しかし、哺乳動物では第1中手骨の発生は他の4つと同様であり、この状態が人でも時折見られる。さらに筋肉の配置からもGalenosの説は疑わしくなる。むしろ、母指の末節骨が中節骨と末節骨の融合したものと考えられる。

H. Rieder (1900) は3つの指節骨を持つ母指を有する1家族を報告している。この8人家族(両親と6人の子供)のうち、妻と2人の子供(13歳の娘と7歳の息子)には奇形がない。夫とその長子(前妻の19歳の娘)、そして12歳の娘、11歳の娘、4歳の男児(全て現在の妻の子供)は3節の母指を持っている。母指の中節骨の発達度合いは様々で、父親よりも19歳の娘の方が顕著である(RK296(手の骨格:13歳の生体X線像、背掌方向から撮影)、297(3節の母指をもつMartina(19歳)の右手) )。注目すべきは、痕跡的な中節骨に骨端部が認められないことだ。[足の小指の中節骨でも近位の骨端部が欠如している。骨端形成の変異性は従来考えられていたよりも大きい(Pfitzner)]。この家族では母指球の筋肉、特に母指対立筋が多少萎縮していた。今後3節の母指を調査する際は、足の母指も同様の状態かどうか確認すべきだろう。

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RK296(手の骨格:13歳の生体X線像、背掌方向から撮影)、297(3節の母指をもつMartina(19歳)の右手)

H. Salzer (1898) も3節の母指の2例を報告しており、両方とも母親からの遺伝である。Salzerは解釈においてPfitznerの説に同意している。すなわち、手足の母指が2節から成るのも、他の指が3節から成るのも、末節骨がその隣接する節の骨と融合したためだという。つまり、手足の母指が2節なのは、中節骨と末節骨の融合により、典型的だが大きな末節骨が生じたためである。この見解は近年の研究者に広く支持されている。3節の母指は以前考えられていたほど稀ではなく、両側性に現れる場合は高い遺伝性を示す。Stieve (Anat. Anz., 48. Bd., 1915) の報告によると、両側性に3節の母指を持つ人は33人(10家族)に上り、遺伝性が認められている。(日本人では横倉誠次郎(海軍医誌12巻1号)が2例を報告しているが、遺伝関係には触れていない。)

一方、手の骨格の個体発生を見ると、RK296(手の骨格:13歳の生体X線像、背掌方向から撮影)、297(3節の母指をもつMartina(19歳)の右手) から分かるように、母指中手骨の骨核は指節骨と全く同様の状態を呈している。この事実は、母指中節骨を母指基節骨とみなし、従って母指は3節を有し中手骨を欠くとするGalenosの説に新たな有力な根拠を与えた。足の母指でも状況は同じである(中手骨と同様に、中足骨でも母指のものだけが骨核を近位端に持つ(小川鼎三))。この観点からすれば、足の母指も3節から成り、中足骨を欠いているとみなすべきかもしれない。しかし、成熟した第1中足骨は他の中足骨とよく一致しているため、これまでそのような見解を主張した者はいない。また、哺乳動物では第1中手骨と第1中足骨は発生学的に他の4つと同じ挙動を示し、人でもこのような状態が時折見られることは既に述べた通りである。