深掌動脈弓は主に橈骨動脈の深掌枝によって形成される。これは浅掌動脈弓よりも弱い弯曲を示すが、より長くより平坦である。第1骨間隙の近位端で始まり、手掌の深部を第4中手骨に向かって横走し、そこで尺骨動脈の深掌枝と吻合する。
この動脈弓は尺側に向かうにつれてやや細くなり、中手骨の近位端と骨間筋の上に位置する。そのため、浅掌動脈弓よりも手根骨に近い。短母指屈筋、母指内転筋、各指の屈筋腱、第4指の小筋群がこれを被覆している。
この動脈弓の凹側縁からは小さな枝のみが出る。凸側縁からは掌側中手動脈 Aa. metacarpicae volaresが出て第1・第2・第3・第4骨間隙を遠位に向かって走行し、中手の遠位端でそれぞれ総掌側指動脈または固有掌側指動脈と吻合する。骨間隙に入るところで掌側中手動脈はそれぞれ1本の穿通枝 Ramus perforansを出す。この枝は骨間筋の間を通って背側に至り、相当する背側中手動脈 A. metacarpica dorsalisと結合する。背側手根動脈網が十分に発達していない場合、背側中手動脈が掌側中手動脈の穿通枝から分岐することがある。
**変異:**手の動脈はその配置に著しい変異を示す。最も一般的な変異は、前腕の2つの動脈のうち1つが通常よりも細くなっていたり、その枝の1本が通常より弱くなっていて、他方の動脈がそれに応じて発達しているという場合である。浅層の動脈枝が減少し、深層のものが増加していることが多い。
個々の変異を見ると、しばしば浅掌動脈弓が弱くなっていたり、発達不全であったりする。その枝のうち指動脈の1本(多くは第3と第4指の動脈)が欠如していたり、あるいは指動脈の2本または全部が欠如していたりする。後者の場合には浅掌動脈弓も存在せず、尺骨動脈は第5指の筋に小枝を与えた後に深掌動脈弓に移行する。
多くの例で、このように浅掌動脈弓の発達が不良な場合には、それを補って深掌動脈弓が発達し、その掌側中手動脈が指動脈を分岐する。
しかし、特に動脈弓を欠く場合には、他の動脈、すなわち橈骨動脈の浅掌枝、前腕正中動脈、あるいは発達した掌側骨間動脈がその代償をすることがある。
稀に手における橈骨動脈の分枝がほぼ完全に欠如しており、この場合は橈骨動脈から出るべき枝がすべて浅掌動脈弓から出て、同時に深掌動脈弓も欠如している。ただし、このように手における橈骨動脈の分枝が欠如または発達不全の場合でも、近接する動脈、特に骨間動脈がその代償をすることがある。
少数例では浅掌動脈弓も深掌動脈弓も形成されず、中手と指に分布する動脈が直接様々な前腕動脈から起始している。
以下はS. N. Jaschtschinskiの浅掌動脈弓および深掌動脈弓に関する研究の一部である。比較解剖学的に見ると、尺骨動脈は多くの哺乳動物(有袋類、貧歯類、有蹄類、翼手類、食肉類など)において欠如しているか、非常に小さい。一方、橈骨動脈は多くの哺乳動物で広く見られるが、その発達程度は低い(Zuckerkandl)。尺骨動脈はサル類では比較的発達しているが、橈骨動脈より大きくなるのは霊長類からである。
したがって、人の尺骨動脈が橈骨動脈と同じかそれより小さい口径である場合、この変異を先祖返りの理論で説明したくなる。尺骨動脈が手掌で尺骨動脈弓Arcus ulnarisを形成し、橈骨掌側枝Ramus radiopalmarisを欠く場合、尺骨動脈はより大きい口径を持つ。橈骨動脈が1本の橈骨掌側枝を出す場合、尺骨動脈の口径は橈骨動脈と同じかそれより小さい。橈骨動脈が強大であるほど、尺骨動脈は弱くなる。
純粋な尺骨動脈弓が人類型(anthropomorpher Typus)に近い。サルでは橈骨尺骨動脈弓Arcus radioulnarisが正常形態だが、ヒトではこれは尺骨動脈弓より稀(27%)である。そのため、橈骨・尺骨動脈弓は先祖返りの性質を持つと言える。橈骨動脈との連結がなく、橈骨尺骨動脈弓に相当する形態を示すものも、おそらく同様の系統発生学的意味を持つ。一方、弓状部を欠く尺骨動脈弓に相当する変異は動物界では見いだせない。
正中尺骨動脈弓Arcus medianoulnarisと橈骨正中尺骨動脈弓Arcus radiomedianoulnaris、およびそれらで弓状部を欠く例では、この血管の分枝様式に先祖返りの性格を与えているのは、人体にとって異常な存在と言える正中動脈である。(Anat. Hefte, 22. Bd., 1896)
Adachiによると、日本人の手掌の浅層動脈はヨーロッパ人に比べて発達が悪く、浅掌動脈弓もより頻繁に開放している。日本人では掌側指動脈が深掌動脈弓か背側中手動脈に由来することが多い。第3総指動脈ではこの関係が逆になる。これらの問題についてはさらに次の文献を参照されたい。E. Schwalbe: Morph. Jahrbuch, 23. Bd., 1895 und Morph. Arb., 8. Bd., 1898 - J. Tandler (u. E. Zuckerkandl): Anat. Hefte, 22. Bd., 1896.
[図658] 手掌(右)の動脈(III) 深掌動脈弓Arcus volaris profundus(5/6)
[図659]手背(右)の動脈(I) (5/6)