身体の設計における軸系については前述の通りである。縦軸は非対称性を、横軸は対称性を示し、背腹軸では非対称性が顕著である。
縦軸を含み、他の2つの軸に垂直な平面が体の正中面Medianebeneを形成する。この正中面は身体をほぼ対称的な両半に分割する。
正中面に平行して身体を通る複数の平面は矢状面sagittale Ebenenと呼ばれる。正中面も矢状面の一つだが、特別な位置づけを持つ。
横方向に身体を通り、正中面に垂直な複数の平面は横面Querebenen, Transversalebenenと呼ばれる。人体が直立している状態を想定して水平面Horizontalebenenとも呼ぶ。
正中面に垂直に身体を通り、直立した体では上下および左右の方向に広がる平面が前額面Frontalebeneである。
正中面との位置関係を表現するために、内側medialと外側lateralという用語を用いる。また、方向を表すために内側へmedianwärts、外側へlateralwärtsという副詞が使用される。
同様の意味で矢状断、横断、前額断という用語が使用され、これらに対応する軸も存在する(RK154(l:縦軸、b:横軸、d:背腹軸)、155(身体の水平断の模型) )。
RK156(身体の水平断模型に方向などを示す言葉を書き入れたもの) の身体の軸を示す模型図では、人体を他のすべての脊椎動物と同様の自然な位置に置いている。しかし、人体の本来の自然な姿勢は直立したものである。
比較の際には、この点を十分に考慮する必要がある。直立した体では、頭方(kranial)が上(oben)、尾方(kaudal)が下(unten)、腹方(ventral)が前(vorn)、背方(dorsal)が後(hinten)となる。
頭方(kranial)、近位(proximal)の位置と方向は、その逆である尾方(kaudal)、遠位(distal)と比較すると自ずと明らかになる。背方(dorsal)の位置と方向は腹方(ventral)の逆であり、これも容易に理解できる。近位および遠位という表現は上肢と下肢の位置を示すのに用いられ、体幹からの距離を意味する。また、橈側(radialis)、尺側(ulnaris)、脛側(tibialis)、腓側(fibularis)という表現は、体肢においてそれぞれの骨との局所的な関係を示す。これらの用語により、体肢が全身に対してどのような位置にあっても、それとは無関係に方向を表現できる。体肢の伸側は背側(dorsal)と呼ばれ、上腕と前腕と手の屈側は掌側(volar)、足の屈側は底側(plantar)の面と呼ばれる。大腿の屈側は腹側面(ventrale Fläche)と呼ばれるが、下腿は前面と後面(vordere und hintere Fläche)を持つ。視覚器と聴覚器では位置を表現するのにいくつかの特別な名称が必要であり、実際に慣用されている。左(links)、右(rechts)という表現は混同の心配がなく、内方(innen)、外方(außen)という表現は空間的な位置関係にのみ用いられる。また、浅(superficialis)、深(profundus)という表現は、全身の表面あるいは1つの器官の表面からの距離を示すのに用いる。RK156(身体の水平断模型に方向などを示す言葉を書き入れたもの) は上述の事項を示している。
次に、位置および方向を表現するのに慣用されている用語を集めておこう(Jenaer Nomina Anatomica、すなわちJ. N. A. による):
[図154] l:縦軸、b:横軸、d:背腹軸
[図155] 身体の水平断の模型
M:正中面、sag:矢状断(矢状面または矢状断)、fr:前額軸(前額面または前額断)(Panschによる)
[図156] 身体の水平断模型に方向などを示す言葉を書き入れたもの。
medianus(正中)、sagittalis(矢状)、frontalis(前額、前頭)、transversalis(横)、medialis(内側)、intermedius(中間)、lateralis(外側)、anterior(前)、medius(中)、posterior(後)、ventralis(腹方、腹側、前)、dorsalis(背方、背側、後)、internus(内方、内)、externus(外方、外)、dexter(右)、sinister(左)、longitudinalis(縦)、transversus(横)「1」、cranialis(頭方、上)、rostralis(吻方)「2」、caudalis(尾方、下)、superior(上)、inferior(下)、superficialis(浅)、profundus(深)、nasalis(鼻側、内側)。
「1」ある器官の軸に対して横であるときはtransversusといい、体軸に対して横であるときはtransversalisという(原著註)。 「2」体軸の前方(すなわち頭方)の極に近い、あるいはそれに向かっての意である(原著註)。
proximalis(近位、上)、distalis(遠位、下)、radialis(橈側、外側)、ulnaris(尺側、内側)、volaris(掌側、前)、dorsalis(背側、後)、tibialis(脛側、内側)、fibularis(腓側、外側)、plantaris(底側)、dorsalis(背側)。