骨折は好条件下では、両骨折面の間に骨質が形成され治癒する。この際、動物の管状骨では骨化に先立って真の軟骨が形成されるという興味深い現象が常に起こるが、ヒトではそうでないこともある。条件が悪い場合には線維性結合組織による融合が生じる。Krompecher(1937)によると、圧力が作用する部位では軟骨性の骨形成が、引張力が働く部位では結合組織性の骨形成が起こるという。
骨組織に欠損が生じると、骨膜はその欠損を完全に補充すべく、他のどの組織よりも活発に働く。特にその細胞に富む最深層が活動的で、ここは胚芽層(Keimschicht)とも形成層(Kambiumschicht)とも呼ばれる。哺乳動物では骨膜の一部を完全に切り離し、体の他の場所に移植しても、そこで新たに骨が形成される(Ollier)。動物では骨膜を慎重に保存しておけば、四肢と肋骨に属するすべての骨は、ほぼ元の形に再生することが可能である。同様の現象がヒトでも下顎骨・肋骨・肩甲骨などの再生時に観察される。
欠損の補充が最も容易に行われるのは管状骨の骨幹であり(Bier)、海綿質の多い骨や頭蓋骨は比較的補充されにくい。このため、骨膜の骨芽層(osteogene Schicht)の重要性が高い。組織欠損が起こる前は骨芽層は不活性だが、その形成能力は温存されており、一度組織欠損が生じると活動を再開する。
Bonomeによれば、骨膜と骨髄を完全に除去しても、石灰化した骨基質が溶解し骨細胞が骨芽細胞に脱分化して新しい骨を形成できるという。ただしこれは、血管を持つ組織が周辺から速やかに骨細胞に接して栄養を供給するという理想的な条件下でのみ可能である。骨折面に近接する骨細胞層は、Bonomeによれば常に死滅するという。骨膜は一度剥離されると再生しない。骨髄の骨形成への関与は疑わしいが、Bidderによれば、極めて若い動物では骨髄でも活発な骨形成が起こる。一方、高齢の動物では骨髄はこの能力を失う。
偶発的軟骨および骨発生(accidentelle Knorpel- und Knochenbildung)がしばしば観察される。軟骨自体は再生しにくく、軟骨の損傷は多くの場合、線維性結合組織によって、まれに(肋軟骨の損傷時のように)骨形成によって修復される。一方で、軟骨の新生が偶発的に(いわゆる軟骨腫Enchondroma[軟骨腫のうち、正常では軟骨組織の現れない場所に生じるもの。内軟骨腫という訳語もあるが一般に用いられない。(小川鼎三)]として)多くの器官(乳腺・耳下腺・精巣・肺・皮膚・骨)に起こる。偶発性骨発生は、いわゆる永久軟骨(例えば甲状軟骨)の骨化、腱の骨化、脳硬膜の骨形成といった形で起こり、さらに眼・卵巣・肺・筋肉などにも現れる。
Krompecher, Die Knochenbildung, Jena 1937. 骨折治癒の組織化学は、Hintzsche und Wermuth, Z. mikr.-anat. Forsch., 28. Bd.,1932.