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目次(IV. 内臓学)

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腸間膜小腸を収容する第4の腹膜嚢を観察する前に、十二指腸と腹膜の関係を再確認しよう。

十二指腸の上部はほぼ完全に腹膜に覆われているが、下行部と下部は前面のみが腹膜に覆われている(図099(胸部と腹部の内臓の位置)図164(腹部内臓の位置関係V))。一方、その後面は結合組織によって後腹壁に付着している。

十二指腸上部の前方は大きな腹膜嚢の一部に、後方は網嚢の前葉に覆われており、内側の狭い帯状部分は腹膜に覆われていない。下行部は横行結腸間膜の起始部が横方向に越えている(図099(胸部と腹部の内臓の位置)図164(腹部内臓の位置関係V))。そのため、下行部上部は結腸間膜の上葉が上方に延びた部分に覆われ、下部と上行部は結腸間膜の下葉が下方に延びた部分に覆われている(図160(腹部内臓の位置関係IV. 腹腔後壁の観察))。小腸間膜に関しては、十二指腸下部の右半分は小腸間膜右葉の上方への延長部に、左半分は左葉の延長部に覆われている(図159(腹部内臓の位置関係 III. 腹腔後壁の左半を観察する)図164(腹部内臓の位置関係V))。

小腸の腹膜嚢は十二指腸空腸曲から始まり、空回腸を収容している。これが小腸間膜(Mesostenium)である。小腸間膜は空腸と回腸を体腔後壁に固定する大きな腹膜のひだであり、その両葉(右葉と左葉)は末梢端で空回腸を包み、血管・リンパ管・リンパ節・神経・結合組織・脂肪組織も含んでいる。小腸間膜の付着線、すなわち小腸間膜根(Radix mesostenii)は第2腰椎体から斜め下方へ右腸骨窩に伸び、ここで小腸は大腸に移行する(図099(胸部と腹部の内臓の位置)図164(腹部内臓の位置関係V))。

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図099(胸部と腹部の内臓の位置)

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図159(腹部内臓の位置関係 III. 腹腔後壁の左半を観察する)

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図160(腹部内臓の位置関係IV. 腹腔後壁の観察)

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図164(腹部内臓の位置関係V)

3~5メートルの長さを持つ空回腸は蛇行して狭い腹腔内に収まっており、その配置には個体差があるものの、一定のパターンが見られる。腸腹(Daumbauch)上部では、横行結腸と横行結腸間膜に接する腸係蹄が水平方向に横走している。小骨盤内でも同様に水平方向に走行する。脊柱の左右にある腸管は上下方向に配列している。最前方の係蹄には一定の走行方向が認められない。

係蹄の上方群(水平方向)、左方の係蹄(上下方向)、および中間部係蹄群の一部(不規則方向)は空腸に属する。中間部の残りと右方の係蹄、および骨盤内(下方)の群は回腸の範囲である。回腸末端部の位置は固定されており、斜めに右上方へ進み、右腸骨窩で大腸に移行する。

さらに、表層と深層の小腸係蹄の関係も重要である。空回腸全長の1/3が表層の腸係蹄に、2/3が深層の腸係蹄に属することが分かっている(D. Sernoff, Internat. Monatsschr., 11. Bd., 1894)。

小腸間膜根の走行には顕著な個体差がある(Stopnitzki, 1898)。

小腸間膜の幅は多様である。個体差を除いても、小腸間膜根と腸間膜の腸壁付着部との距離は十二指腸空腸曲と盲腸への移行部付近で最小となる。小腸間膜が最も幅広くなるのは2箇所あり、1つは腸係蹄の上1/3と中1/3の境界付近、もう1つは小腸末端部付近である。

小腸間膜の始部と終部には重要な特徴があり、これらは腹膜のひだとくぼみとして現れる。回腸末端部と盲腸間の特殊事項については大腸の腹膜嚢の項ですでに述べた。しかし、十二指腸終部と空腸(原文では誤って回腸とされている。小川鼎三の指摘による)始部間のひだとくぼみについてはまだ触れていない。これらは常に存在するわけではなく、その形態は変化に富んでいる。

これらのひだとくぼみの臨床的意義は、くぼみ内に腸の長い部分が入り込んで捕捉され、絞扼されることがある点にある。この現象を内ヘルニア(Herniae internae)および腹膜後ヘルニア(Herniae retroperitoneales)と呼ぶ。

上・下十二指腸結腸間膜陥凹(Recessus duodenomesocolicus cranialis, caudalis)(図159(腹部内臓の位置関係 III. 腹腔後壁の左半を観察する))は常に存在し、その入口はそれぞれ上・下十二指腸結腸間膜ヒダ(Plica duodenomesocolica cranialis, caudalis)によって境界されている。

前者には下腸間膜静脈が、後者には左結腸動脈の1枝が走行していることが多い。