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目次(IV. 内臓学)

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精索 Tunicae testis, Samenstrang

精巣と精索の被膜 Hüllen des Hodens und des Samenstranges

精巣は複数の膜に包まれて陰嚢内に位置し、陰嚢がその最外層の被膜となっている。これらの被膜は腹壁の各層に対応しており、袋状に突出して陰嚢壁を形成している。

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[図316]鼡径管に入る前の精巣と精巣上体(模型図)

1 前腹壁の壁側腹膜、1' 後腹壁の壁側腹膜、2・3. 腹膜鞘状突起の柄と袋の内部(陰嚢腔 Cavum scroti)、4. 精巣、5. 精巣上体、6. 精管、7. 精巣上膜

[図317]精巣と精索の被膜(模型図)

v. 前、h. 後、1. 精巣、2. 精巣上体、r. 陰嚢腔

精巣は当初から陰嚢内に存在するのではなく、胎生期の後期になって初めてそこに到達する。この過程で、精巣は発生した腰部から下降してくる。これを精巣下降Descensus testisと呼び、その際、精巣は鼡径部で前腹壁を通過する。ただし、精巣はこの目的のために腹壁を前方に押し上げたり破ったりするわけではない。精巣が後に入る袋は、精巣自身が鼡径管を通過するよりもかなり前に、腹壁のすべての層を備えてあらかじめ形成されている(図316(鼡径管に入る前の精巣と精巣上体(模型図))、317(精巣と精索の被膜))。

精巣に向かう血管、それを支配する神経、および精管は精巣に随伴する。こうして精巣は最終的に複数の層の袋に包まれることになる。精巣の上端から内鼡径輪まで伸びているこの索状の袋の部分は、その内容物とともに精索Funiculus spermaticus, Samenstrangと呼ばれる。

  1. 最内層は精巣を包む腹膜の続きである。これは精巣上膜(Epiorchium)となって精巣と精巣上体の表面の大部分を被い、次いで精巣膜(Periorchium)となって陰嚢腔の内面を被う。陰嚢腔(Cavum scroti)は精巣膜と精巣上膜の間にある隙間状の空所である(図297(精巣と精巣上体の内側面)図300(精巣とその被膜の横断面)図316(鼡径管に入る前の精巣と精巣上体(模型図))、317(精巣と精索の被膜))。

    精巣膜と精巣上膜は、腹膜が鼡径管を経て陰嚢に突出した突起、すなわち腹膜鞘状突起(Processus vaginalis peritonaei)の一部が開いたまま残った部分である(図316(鼡径管に入る前の精巣と精巣上体(模型図))、317(精巣と精索の被膜))。正常な場合、この突起の長い柄は向かい合う壁が融合し、腹腔口から精巣の近くまで退行する。これにより索状の残存物が形成され、精索内に見られる。これを鞘状突起遺物(Rudimentum processus vaginalis)という(図316(鼡径管に入る前の精巣と精巣上体(模型図))、317(精巣と精索の被膜))。腹膜下鼡径輪付近では、しばしばこの構造物の線維性束が腹膜と連結している。これは様々な長さを持ち、時に細い索となって精巣膜まで達することがあるが、時にはその痕跡が全く見られないこともある。

    成人でも精巣膜の上端は精索に沿って上方に伸びており、それに伴い陰嚢腔が先端の尖った袋状になることがしばしばある。また、陰嚢腔が開いた管となって鼡径管を通り上行し、腹腔の腹膜嚢の高さにまで達することもある。これは人間では胎生期に見られる状態であり、多くの動物では生涯保持される。さらに、精索の前面に沿って多数の小腔が存在したり、腹膜と開放性に連続した長い突起が鼡径管を経て下行し、精索内で行き止まりになることもある。

    腹膜鞘状突起が完全に、あるいは部分的に開存している場合、すべて先天性鼡径ヘルニア(Hernia inguinalis congenita)の素因となり、実際にヘルニアが発生することがある。

    精巣の下降過程では、必ずしも完全な経路を辿るわけではない。鼡径管に達する前や管内など、様々な箇所で停止することがある。これらの場合、陰嚢腔は空虚となる。前者の場合は精巣隠匿症(Kryptorchismus)と呼ばれる。後者の場合は他の生殖器の発育障害を伴うことが多いが、ほぼ完全に発達し、生殖能力に障害がないこともある。

    多くの哺乳動物では精巣が常に腹腔内に留まる。また、精巣が陰嚢に達し生涯そこに留まるものもあれば、発情期のみ挙睾筋の働きで腹腔に戻るものもある。

    腹膜鞘状突起は女性の胎児でも形成される。これはいわゆるヌック管(Canalis Nucki)となって鼡径管を貫くが、腹壁の前面までしか達しない。これに伴い女性には子宮鼡径索があり、これは男性の精巣導帯(Gubernaculum testis)と相同である。腹膜鞘状突起と管の遺残は成人女性にも存在する(ヌック憩室、Diverticulum Nucki)。

  2. 上述の層と疎性結合組織で結合している次の膜は、腹横筋膜(Fascia transversalis)の延長である。腹膜が両側で鞘状突起を形成するのと同様に、腹横筋膜もポケット状の突出部を作る。これは腹膜の鞘状突起よりも容積が大きい。腹膜の鞘状突起を包むだけでなく、精管・精巣動脈・精巣動脈神経叢・精巣静脈・この静脈が形成する蔓状静脈叢および深層のリンパ管も包含するためである。これらの脈管と神経は全て疎性結合組織によってまとめられている。これらを包むため、腹横筋膜のポケット状突起は精巣および精索の鞘膜(Tunica vaginalis testis et funiculi spermatici)とも呼ばれる。この鞘膜の内壁には平滑筋線維が付着しており、これを精巣鞘間筋(M. intervaginalis testis)という。

  3. この鞘膜の外側には赤色を呈する挙睾筋(Musculus cremaster)が接している。これは横紋筋からなる不完全な1層で、内腹斜筋から起こり、浅鼡径輪を貫いて、係蹄状の束を形成し鞘膜およびその内容物を取り巻いている(RK493(浅鼡径輪および大腿輪))。

  4. 挙睾筋膜(Fascia cremasterica)。これは外腹斜筋自身の筋膜の延長である。

    この筋膜は浅鼡径輪の部位でしばしば脚間線維(Fibrae intercrurales)と顕著に連結し、主に浅鼡径輪の縁から起始する。

    これと共に浅腹筋膜(Fascia superficialis)の薄い延長が陰嚢内に達している。

  5. 皮下組織(Tela subcutanea)。皮下の結合組織(ただし脂肪組織は含まれない)も精索に随伴して陰嚢に至る。ここでは平滑筋線維が豊富で、これが主要な構成成分となっている。

    この平滑筋線維層は柔らかく厚みがあり、赤みを帯びており、肉様膜(Tunica dartos;Fleischhaut)と呼ばれる。これにより精巣は陰嚢内で容易に移動でき、また収縮することで陰嚢の皮膚にひだやしわを形成する。

  6. 皮膚(Cutis)。これは上述の様々な被膜の最表層に位置し、体表皮膚が突出して形成された袋であり、左右の精巣と精索の終末部を包む。この突出部は、これに属する皮下組織と共に陰嚢(Scrotum, Hodensack)と呼ばれる。

    陰嚢は体格の良い健康な人では過度に伸展されておらず、顕著なしわがある。寒冷刺激によりさらに強く収縮する。虚弱な人や病人では弛緩し、かなり強く下垂している。その表面中央部には低い隆起、すなわち陰嚢縫線(Rhaphe scroti)があり、陰嚢が左右の半球が融合して形成されたことを示している。この縫線は陰茎下面から陰嚢と会陰を経て肛門に至る。会陰では会陰縫線(Rhaphe perinei)と呼ばれる。

    陰嚢の皮膚は薄く、通常は他の体表皮膚よりも暗色を呈する。ここには多数の大型脂腺があり、毛も散在している。毛包は多くの場合小さな隆起を形成し、肉眼で確認したり触知したりできる。また、浅層の血管も薄い皮膚を通して透見できる。さらに、陰嚢とその周囲には多数の汗腺が存在する。

    肉様膜は会陰、大腿内側面および恥丘の皮下結合組織へと連続している。ここには脂肪組織が全く存在しないか、あっても極めて散在性である。陰嚢の前方と側方の脂肪組織は陰嚢自体の周囲に近づくにつれて徐々に減少し痕跡的となる。一方、平滑筋は増加する。肉様膜の組織は陰嚢前部のほうが後部よりも豊富で、2つの部分に分かれて各側の精巣を包み、両者の間に隔壁、すなわち陰嚢中隔(Septum scroti)を形成している。

陰嚢およびその内容の脈管と神経 Blutgefäße und Nerven des Hodensacks und seines Inhalts