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目次(VI. 感覚器)

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基本構造と特徴

位置と傾斜

構造的特徴

血管と神経支配

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図666(左側聴覚器の概観図)

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図675(左側鼓膜の外面)

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図676(左側鼓膜の内面、ツチ骨およびキヌタ骨)

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図677(成人の鼓膜の下縁とその付近—放線方向の切断)、678(成人の鼓室の粘膜—横断)

鼓膜は円形に近い楕円形の円盤で、後上方から前下方への直径は10~11mm、これと直角方向は9mmである(松島伯一によれば日本人の鼓膜は長さ9.4mm、幅8.4mmである。医学研究4巻6号、1929)。

鼓膜の厚さは約0.1mmと薄いものの、かなりの剛性を持ち、水銀柱100cm以上の圧力に耐えることができる。一方で弾性は非常に小さく、ほとんど伸展不能であり、自然位置でも強い弾性緊張状態にはない。生体における鼓膜は煙のような中間調の灰色を呈し、半透明で柔らかな輝きを持つ。死体では表皮層が膨化して濁り、輝きと透明性が失われる。

鼓膜の縁は鼓膜縁Limbus membranae tympaniと呼ばれ、全周の大部分が線維軟骨輪Anulus fibrocartilagineusによって側頭骨鼓室部の鼓室輪溝Sulcus anuli tympaniciに固定されている。上方では側頭鱗がその鼓膜切痕Incisura tympanicaの中に鼓膜を受け入れている。鼓室輪溝内に固定された部分はピンと張った膜を形成し、この部分を緊張部Pars tensaと呼ぶ。対して鼓膜切痕で受けられる上方の小領域は緩んでおり、弛緩部Pars flaccida(またはシュラプネル膜Shrapnellsche Membran)と呼ばれる。緊張部は弛緩部より厚く、両部の境界が前後2本の細い境界線として見え、これを前および後鼓膜条Stria membranae tympani anterior et posteriorと呼ぶ。

鼓膜の面の形:鼓膜は固定枠内で単一平面を形成せず、付着するツチ骨の柄と短突起により、その形状が大きく影響を受ける。柄によってツチ骨条が生じ、短突起により弛緩部と緊張部の境界で膜が外方へ隆起する。この隆起をツチ骨隆起Prominentia mallearisと呼ぶ。一方、へら状に広がったツチ骨柄の先端は鼓膜を内方へ牽引し、鼓膜外面がロート状に陥凹する。これを鼓膜臍Umbo membranae tympaniと呼び、その位置は鼓膜中央よりやや下前縁寄りにある。

鼓膜の傾斜:鼓膜の傾きは全体の傾きと各4半部の傾きに区別される。全体の傾きとは、鼓膜の付着縁で決定される平面(鼓膜平面Trommelfelebene)の傾きを指す。鼓膜平面は正中面に対して顕著な傾きを示し、外耳道の後壁と上壁から自然に連続するように見えるが、下壁とは鋭角を形成する。より正確には、鼓膜は水平面と正中面の両方に対して傾斜する二重傾斜を呈する。