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横行結腸は当初、独立した腹膜のひだである横行結腸間膜Mesocolon transversumによって腹腔の後壁に固定されている。その根部、すなわち横行結腸間膜根Radix mesocoli transversiの付着線は十二指腸の下行部と膵臓の頭部を横切り、その後膵体の下縁に沿って走行する。横行結腸間膜の上葉と横行結腸が、大網の背側に向かって折り返された後葉と二次的に癒着するため、横行結腸間膜は結果的に4枚の膜から構成される。
前述のように、胃の大弯から横行結腸に伸びる大網の部分を胃結腸間膜部Pars gastromesocolicaと呼び、これにより大腸の腹膜嚢は胃の腹膜嚢と連結している。
さらに、大腸の腹膜嚢は横行結腸のみならず、大腸全体を包んでいる。そのため、上行部、横行部、下行部の3部に区分される。上行部は盲腸と上行結腸に、横行部は横行結腸に、下行部は下行結腸、S状結腸、および直腸に相当する。以下、各部分の腹膜の特徴について詳述する。
盲腸は前方、側方、下方を腹膜で覆われ、後方は様々な範囲で結合組織により腸骨筋膜に付着している。腹膜がほぼ完全に盲腸を被覆している場合、盲腸は後腹壁からやや遊離した状態となることがある。盲腸の後面には上方に向かう腹膜のくぼみがあり、これを盲腸後陥凹Recessus retrocaecalisと呼ぶ。この陥凹は個体差が大きく、結腸の始部にまで及ぶこともある。
この可変性に富む陥凹のやや上方に、下回盲陥凹Recessus ileocaecalis caudalisという別のくぼみが存在する。これは多くの場合、比較的大きな腹膜のひだである下回盲腸ヒダPlica ileocaecalis caudalisによって外側を区画されている。
このひだは回腸の後面から出て、回腸の末端部と盲腸および虫垂の間隙を埋めている。対側、すなわち前方では、回腸の盲腸への開口部が上回盲腸ヒダPlica ileocaecalis cranialisという小さなひだで覆われており、このひだは回結腸動脈の一分枝を包含している。このひだは小腸間膜の右側面と回腸の前面から隆起して盲腸に向かい進み、そこで終止する。これは腸壁とともに上回盲腸陥凹Recessus ileocaecalis cranialisという小さなくぼみを形成している(図162(盲腸と虫垂、回腸末端部およびその周囲の腹膜嚢))。
回腸の下縁において、小腸間膜の下端から繊細なひだが出て、虫垂に向かって進み、これを包んでいる。このひだは虫垂に向かう脈管も含んでおり、虫垂間膜Mesenteriolum processus vermiformisと呼ばれる。
上行結腸は前方と側方を腹膜で覆われている。後面の狭い帯状の部分は通常腹膜を欠いている(図164(腹部内臓の位置関係V))。ただし、時に上行結腸間膜Mesocolon ascendensが存在することがあり、その幅は広狭様々である。
左結腸曲の位置には横隔結腸ヒダPlica phrenicocolicaという腹膜のひだが顕著に突出している。これは側腹壁から横走して左結腸曲に張っている。このひだの上方深部に脾臓の前端が位置するが、これは決して固定されているわけではない(図099(胸部と腹部の内臓の位置)、図164(腹部内臓の位置関係V))。
下行結腸と腹膜の関係は上行結腸の場合に類似している。後方の帯状部分(多くの場合狭い)は腹膜を欠いている(図164(腹部内臓の位置関係V))。しかし、前面と側面は腹膜で覆われている。外側面には時に複数の小さなくぼみ、すなわち結腸傍陥凹Recessus paracoliciが存在する。ここにも幅の広さが様々な下行結腸間膜Mesocolon descendensが時として観察される。
一方、S状結腸は大きな広がりを持つことのある腹膜のひだに包まれている。このひだをS状結腸間膜Mesosigmoideumという。これが後腹壁に付着する線は、様々な高さで始まっている。
S状結腸を上方に反転させ、結腸間膜を緊張させると、その左面にロート状のS状結腸間陥凹Recessus intersigmoideusが現れる(図354(S状結腸間陥凹)、3)。これは時に非常に深いことがあるが、変異に富んでいる。陥凹の左側で腹膜の背側には精巣動静脈があり、右側には上直腸動静脈の枝がある。
S状結腸間膜の下端は直腸間膜Mesorectumに連続している。これは直腸の上部をしっかりと支持する、比較的低い腹膜のひだである(図350(女性の腹膜の走行の模式図))。腹膜はそれより下方で直腸から離れ、男性では膀胱へ、女性では腟円蓋と子宮へ移行する。これにより直腸膀胱窩と直腸子宮窩が形成される。
女性の場合、この折り返し部分で直腸の側面から半月形のひだが子宮に向かっている。これは平滑筋を含み、直腸子宮ヒダPlica rectouterinaと呼ばれる。両側に存在するこのひだが直腸子宮窩Excavatio rectouterina(ダグラス腔Cavum Douglasi)の上界を形成している(図275(女性の骨盤内臓器)、図285(女性の骨盤内臓器))。
[図354] S状結腸間陥凹
S状結腸を上方に持ち上げ、S状結腸間膜の左側板が見えるようにしている。