前斜角筋は、C3-6の横突起の前結節から起始し、第1肋骨表面にある斜角筋結節に至ります。この筋は、第2から第6頚椎の横突起前結節から2-5個の一連の筋尖を起始し、各筋尖が合体して1個の筋塊を形成します。筋塊は斜め前外側下方へ向かって頚神経前枝および鎖骨下動脈の前を走り、第1肋骨の前斜角筋結節に至ります(表9, 10, 11)。本筋の起始上限は第4頚椎(58.2%, 262/450例)が最も多く、次に第3頚椎(31.8%, 143/450例)が続きます(表10)。一方、起始下限は第6頚椎(66.7%, 300/450例)が最も多く、次に第5頚椎(28.4%, 128/450例)が続きます(表10)。したがって、本筋は通常、第3から第6頚椎の横突起前結節から3個の一連の起始尖を持って起始します(表11)。

本筋の起始と停止を体表に投影すると、本筋起始上縁は大抵甲状軟骨下縁の高さ(52.5%, 42/80例)に位置します。本筋停止前縁は鎖骨上縁の内側1/3線より少し内側方(50.0%,40/80例)に位置します。停止後縁は正中線と肩峰端との間の前3/4線と1/2線の中央線より男性では少し外側(47.5%, 19/40例)、女性では少し内側(52.5%, 21/40例)に位置します。

本筋を制御するのは第4から第8頚神経前枝から出る枝で、その中でも最も多いのは第5から第7の一連の頚神経が本筋を制御する例(55.0%, 11/20例)です。そして第4頚神経は20例中8例、第5は15例、第6は20例、第7は19例、第8は4例で本筋を制御します。本筋の各起始尖は1分節尾側および同一分節の神経を受ける傾向があり、特に本筋の最上位起始尖は1から2分節尾側の神経を受けます。

前斜角筋の変異は次の通りです。

  1. 前・中斜角筋前面および第6・第7頚椎から発生し、第5頚神経前枝の根部の後側を走り、中斜角筋の後面に停止する前斜角筋(第5から第7頚神経支配)。この筋の上部は支配神経の態度から中斜角筋の要素であるとされます(Tsugane et al., 1998)。
  2. 第5・第6頚椎から発生する前斜角筋(第5・第7頚神経支配)が第1胸神経および鎖骨下動静脈の後側を下って第1肋骨に停止する(Inuzuka, 1989)。
  3. 前斜角筋が鎖骨下動脈によって貫かれる(1.0%, 100例中1例)。
  4. 前斜角筋の後部筋束が鎖骨下動脈壁に停止する(2.0%)。
  5. 前斜角筋の後部筋束が胸膜頂に停止する(10.0%)。
  6. 第3から第6頚椎から起始する前斜角筋が、第4頚椎からの起始尖を欠如する(10.0%)。

表9 前斜角筋の起始尖数(%)

表9 前斜角筋の起始尖数(%)

新藤(1930) 米倉(1954) Mori(1964) 芹澤(1968)
起始尖数 アイヌ成人 日本人胎児 日本人成人 日本人成人
2 1(10.0) 3(3.0) - 19(19.0)
3 7(70.0) 79(79.0) 232(96.7) 56(56.0)
4 2(20.0) 17(17.0) 8(3.3) 20(20.0)
5 - 1(1.0) - 5(5.0)
10(100.0) 100(100.0) 240(100.0) 100(100.0)

表10 前斜角筋起始の上限と下限(%)

表10 前斜角筋起始の上限と下限(%)

新藤(1930) 米倉(1954) Mori(1964) 芹澤(1968)
起始 アイヌ成人 日本人胎児 日本人成人 日本人成人
上限 第2頚椎 - 1(1.0) 8(3.3) 2(2.0)
第3頚椎 1(10.0) 21(21.0) 108(45.0) 13(13.0)
第4頚椎 6(60.0) 73(73.0) 124(51.7) 59『59』)
第5頚椎 3(30.0) 5(5.0) - 26(26.0)-
10(100.0) 100(100.0) 240(100.0) 100(100.0)
下限 第5頚椎 8(80.0) 4(4.0) 116(48.3) -
第6頚椎 2(20.0) 94(94.0) 124(51.7) 80(80.0)
第7頚椎 - 2(2.0) - 20(20.0)
10(100.0) 100(100.0) 240(100.0) 100(100.0)