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図547(右上肢の皮神経分布領域)、548(右上肢の皮神経分布領域)
この神経は腕神経叢の上方の橈側神経束と下方の尺側神経束から出る。その橈側根Radix radialisと尺側根Radix ulnarisと呼ばれる両根はMedianus gabel(正中神経の両叉)をなして腋窩動脈を挟み、この動脈の前で鋭角をなして合する。そしてこの動脈の前面から上腕の上部で間もなく動脈の外側面に達し、この動脈とともに尺側上腕二頭筋溝の中を遠位に走る。上腕の下方1/3では正中神経は上腕動脈の前面(まれにはその後面)を越えて次第にその内側面に達する。すなわちこの神経は上腕動脈の周りに長く延びた1つの螺旋を描くわけである。肘窩では円回内筋の両頭の間を通り、続いて前腕の中央線上で浅指屈筋と深指屈筋との間を通り、遠位に走って手関節に達する。正中神経は手関節より上方では筋膜の下にあり、多くの場合(88例中53例)橈側手根屈筋と長掌筋との腱の間にあり、それよりも少ない頻度で(88例中35例)長掌筋と浅指屈筋との腱の間にある。次いでこの神経は指の諸屈筋の腱の上で、手根管を通って手掌に達し、手掌腱膜の下でその終枝に分かれる。
正中神経は上腕においてはすでに上述した存在の不定な結合枝を筋皮神経に出し、まれに1本あるいはそれ以上の枝を上腕筋に与える。
**変異:**正中神経が表面に出て円回内筋の尺側頭の上にあることがあり、そのときは円回内筋と橈側手根屈筋との間を走って、その後にようやく正常の位置に戻る(Ferner, Anat. Anz., 84. Bd.)。
正中神経の枝で前腕に分布するものを次に挙げる:
a) 関節枝Rami articularesは肘関節に分布する。
b) 筋枝Rami musculares(図543(右前腕屈側の神経))は深指屈筋の両尺側頭と尺側手根屈筋を除く前腕のすべての屈筋に達する。
これらの枝の上方の1群は円回内筋・長掌筋・橈側手根屈筋を支配し、また浅指屈筋の上顆からの起始をも支配する。中央の1群は長母指屈筋の上顆における存在不定の起始・浅指屈筋の橈側頭を支配し、またこの群にすぐ後で特に述べる掌側前腕骨間神経N. interosseus antebrachii volarisも属している。第3の下方の1群は浅指屈筋の示指に行く筋頭のみに入っている。
c) 掌側前腕骨間神経N. interosseus antebrachii volaris(図543(右前腕屈側の神経))は掌側骨間動脈とともに前腕骨間膜の上で長母指屈筋と深指屈筋との間を走り、方形回内筋に達してその背側面からこの筋に入る。この神経は次の枝を出している。
α. 筋枝Rami muscularesを長母指屈筋と深指屈筋の橈側部とに送る。β. N. membranae interosseae antebrachii(前腕骨間膜神経)(Rauber)を出す。これは各1本の橈側枝と尺側枝とに分かれ、両者は橈骨と尺骨との両方の骨間稜に沿って遠位に走って方形回内筋にまで達し、骨間動静脈と骨膜と前腕の骨自身に枝を与え、また数多くの小さいファーター・パチニ小体を有している。γ. 筋枝Ramus muscularisを方形回内筋に与える。δ. 掌側前腕骨間神経の最後の部分は手関節の背側面にまで続いている。
d) 掌枝Ramus palmaris(図543(右前腕屈側の神経))。これは細い枝であって、手関節より上方の様々な高さで正中神経から発し、橈側手根屈筋と長掌筋との腱の間で前腕筋膜を貫き、皮下を走って手掌に入り、2本の枝に分かれて、これらの枝は母指球の皮膚と手掌の皮膚に終わる。
上腕および前腕における正中神経の枝分かれの様子は日本人においてもだいたい同様である(Hirosawa 1931)。
手根管の内部で正中神経が橈側と尺側の各1本の枝に分かれる(図545(右手掌の神経))。尺側の枝からは尺骨神経との交通枝Ramus communicans cum n. ulnarisが出て、これは浅掌動脈弓に平行して走る。尺側と橈側の両枝は筋枝を第1と第2の虫様筋に、また母指球の筋の全体(ただし母指内転筋と短母指屈筋の深頭を除く)に与え、次いで3本の総掌側指神経Nn. digitales volares communesに分かれる。これらがさらに固有掌側指神経Nn. digitales volares propriiに分かれ、母指側の3指の両側縁と第4指の母指側縁に分布する(図545(右手掌の神経))。
正中神経の終枝は詳しく述べると次のように分かれる:
橈側終枝Ramus terminalis radialis:これは直ちに4本の枝に分かれる。
α. その第1枝は短母指外転筋、母指対立筋および短母指屈筋(の橈側頭)に分布する。 β. 橈側母指掌側指神経N. digitalis volaris pollicis radialis:これは母指の掌側面の橈側縁に分布し、細い小枝によって母指の背側面を走る橈骨神経の枝と合する。 γ. 尺側母指掌側指神経N. digitalis volaris pollicis ulnaris:これは母指の掌側の尺側縁に分布する。 δ. 橈側示指掌側指神経N. digitalis volaris indicis radialis:これは示指の掌側の橈側縁に広がり、第1虫様筋神経N. lumbricalis Iを出す。
尺側終枝Ramus terminalis ulnaris:これは直ちに第2総掌側指神経N. digitalis volaris communis IIと第3総掌側指神経N. digitalis volaris communis IIIとに分かれる。
α. 第2総掌側指神経 N. digitalis volaris communis II:これは第2中手骨間隙Spatium interosseum IIの前を通って中手骨の遠位端にまで達し、第2虫様筋神経N. lumbricalis IIを出し、尺側示指掌側枝Ramus volaris indicis ulnarisと橈側中指掌側枝Ramus volaris digiti medii radialisとに分かれる。 β. 第3総掌側指神経N. digitalis volaris communis III:これは第3中手骨間隙Spatium interosseum IIIにあって前に述べたのと似た関係を示し、尺側中指掌側枝Ramus volaris digiti medii ulnarisと橈側第4指掌側枝Ramus volaris digiti quarti radialisとを出す。時には両枝に分かれる前に第3虫様筋神経N. lumbricalis IIIを送り出すが、この枝はしばしば尺骨神経の掌側枝の深枝から発している。またこの第3総掌側指神経N. digitalis volaris communis IIIが尺骨神経との交通枝を1本持っている。
変異:正中神経の外側根は1枝を尺骨神経に与えるが、このことは日本人ではヨーロッパ人におけるよりもさらにまれである。前腕においては正中神経と尺骨神経との間の結合がヨーロッパ人ではおよそ25%に、日本人では10.48%に見られる(Hirosawa 1931)。単独の交通枝の代わりに1つの神経叢が見られることはヨーロッパ人では全例のおよそ1/3ないし1/2(Gehwolf 1921)、日本人では全例の45%である(Hirosawa 1931)。
[図543]右前腕屈側の神経(3/5倍)
[図544] 右前腕伸側における橈骨神経の分枝(3/5倍)
前腕表層の伸筋群を切断し、側方に引いて展開している。