僧帽筋が頭蓋を上肢帯の後部と結合させるのに対し、胸鎖乳突筋は頭蓋を上肢帯の前部と胸骨に結合させる。
この筋は強力に発達しており、頚部を斜めに走行する。2つの頭部を持って起始し、胸骨部(Pars sternalis)は胸骨柄から、鎖骨部(Pars clavicularis)は鎖骨の胸骨端から起こる。鎖骨部は胸鎖関節の外側で鎖骨に始まり、徐々に胸骨部の下に移動して合流し、乳様突起の外面および分界項線に沿って停止する。
鎖骨部と胸骨部、および鎖骨の間にできる三角形の空間は、皮膚表面でもくぼみとして視認・触知できる。このくぼみは小鎖骨上窩(Fossa supraclavicularis minor)と呼ばれる(RK151(**人体の諸部分:**頚と頭) )。この三角の底部には内頚静脈と総頚動脈が位置する。
**神経支配:**副神経および頚神経叢による。これは由来を同じくする僧帽筋と同様の神経支配である。
**脊髄節との関係:**副神経、C. II, III
**作用:**両側性に働く場合、顎を軽く上方に挙げながら後頭部を前方に引く。(主に空間における頭部の位置を変えるが、頚部脊柱に対する頭部の位置関係の変化は比較的少ない。)一側性に働く場合、頭部を反対側に回旋し、かつ傾ける。頭部を固定している状態では、吸気筋として機能する。
**変異:**この筋の下部には1本または2本の腱画が見られ、発達の程度は様々である。W. Krause(1876)によれば、この筋は4頭からなるM. quadrigeminus capitis(頭四叉筋)とみなすべきだという。すなわち、Caput sternomastoideum(胸骨乳突部)、Caput sternooccipitale(胸骨後頭部)、Caput cleidomastoideum(鎖骨乳突部)、Caput cleidooccipitale(鎖骨後頭部)の4頭である。これら4つの筋の様々な離合集散によって、この筋の変異が説明できる。胸骨乳突部が(非常にまれだが)欠如することがあり、比較的頻繁に鎖骨後頭部あるいは胸骨後頭部が欠けることもある。胸骨後頭部は(まれに)独立しており、鎖骨後頭部が独立していることはしばしばである(Woodによれば36%)。
M. transversus nuchae(項横筋)という筋が見られることは極めて多い。この筋は通常僧帽筋の下にあるが、時にその上にあることもあり、外後頭隆起付近から起始し、乳様突起に向かって水平または弓状に走行する。その少数の線維が分界項線に付着している。