(RK662(腹大動脈とその主な枝)RK665(上腸間膜動脈の分枝))

上腸間膜動脈は太い動脈で、十二指腸の下行部以下の小腸全体および大腸の半分に血液を供給する。この動脈は腹腔動脈のやや下方、第1腰椎の高さで大動脈の前壁から起こる。

**局所解剖:**この動脈の前壁には短い距離だけ膵臓が接している。膵臓の下縁からこの動脈が出てくるところで、十二指腸の終末部の前を通って小腸間膜に達し、その両葉の間に入る。動脈の幹は両葉の間を軽く左方に凸の弧を描いて右下方に走りながら、多数のかなり太い枝を出して次第に細くなる。右腸骨窩で、この幹の下端は右下方に曲がり、幹の凹側縁から出た枝の最後のものと吻合する。凸側縁から出る枝は空腸と回腸を養い、凹側縁から出る枝は大腸の諸部、十二指腸と膵頭の一部を養う。これらの枝は互いの間で多数の吻合をもつ。

この動脈の枝は次の通りである。

a) 下膵十二指腸動脈 A. pancreaticoduodenalis caudalis:この動脈は幹の凹側縁から出る最初の枝で、膵臓の後ろで分岐する。膵臓と十二指腸の下行部の間で、後者の凹側に沿って進み、固有肝動脈から出る上膵十二指腸動脈と吻合する(598頁および図665参照)。

b) 空腸動脈、回腸動脈 Aa. jejunales, Aa. ilicae(RK665(上腸間膜動脈の分枝)):空腸と回腸を養う、幹の凸側縁(左側)から出る多数の枝である。通常12~16本あり、互いに近接して並行して発し、腸間膜の両葉の間を通って腸に至る。これらの枝は幹からやや離れてからそれぞれ2本の枝に分かれ、その枝はそれぞれ隣接する枝と合して弓形を作る。この動脈弓から新しい枝が始まり、短距離走ってから再び枝を出し、より小さい弓形を新たに形成する。この過程が繰り返され、さらに広がっていく。こうして幹から3列ないし5列の動脈弓ができるが、これらの動脈弓は腸に近づくにつれて数は増加するが大きさは減少する。最後に最小の動脈弓から出る小枝が腸管壁に入り、そこで分枝する。この発達した3列ないし5列のアーチ状血管網が腸の各部に平等かつ確実に血液を供給し、血流を調整する。さらに、多数の細い枝が出て小腸間膜の前後両葉を養い、また両葉の間にある構造、特にリンパ節を養っている。

c) 回結腸動脈 A. iliocolica:この動脈は幹の凹側縁から出る最後の枝で、右下方に進み盲腸と回腸の接合部に至る。動脈が腸に達する前に回腸枝と結腸枝の2本に分かれる(RK665(上腸間膜動脈の分枝))。

α) 回腸枝 R. ilicus:回腸の末端部に向かい、上腸間膜動脈の幹の終末部と結合して1つの弓を形成し、これが第1列のアーチに相当する。

β) 結腸枝 R. colicus:上方に向かい、そのすぐ上にある右側の枝と同様の吻合を行う。この動脈弓の凸側縁から小腸の場合と同様に次の列となる動脈弓が始まるか、あるいはそこから直接小さな枝が出て回腸の末端、盲腸、上行結腸の始部を養う。虫垂動脈 A. appendicularisという比較的太い枝が虫垂に向かう。

d) 右結腸動脈 A. colica dextra:これは腹膜の後方を横走し、上行結腸の中央部に至り、その付近で上行枝と下行枝に分かれる。これらの枝は近接する動脈と弓状に吻合し、その動脈弓から小さな新しい動脈弓が形成されるか、または直接腸管壁に至る枝が出る。

右結腸動脈と回結腸動脈はしばしば1本の共通幹から分岐する。

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[図665] 上腸間膜動脈(Arteria mesenterica cranialis)の分枝(9/20)

横行結腸を上方に折り返し、腸間膜小腸を左側に引き寄せた状態を示している。

e) 中結腸動脈A. colica mediaは結腸間膜の両葉の間を横行結腸に向かって進み、前述と同様の関係で近接する動脈と弓状の吻合を形成し、それぞれ1本の右枝と左枝を送り出す(RK665(上腸間膜動脈の分枝)RK666(下腸間膜動脈の分枝))。

右枝は右結腸動脈の上行部と合する。

左枝はより太く、下腸間膜動脈から出る左結腸動脈の上行枝に達する。この動脈弓も第1列のアーチ型が広く引き伸ばされたものと言えるが、これから小さな新たな動脈弓、あるいは直接腸管壁に至る枝が出る。

**変異:**上腸間膜動脈は時に腹腔動脈と共に大動脈から出ることがある。他の例では、上腸間膜動脈が2本の幹を持って大動脈から出ている。通常は腹腔動脈に属する胃十二指腸動脈や肝動脈といった枝が上腸間膜動脈から出たり、この動脈が肝臓、膵臓、十二指腸に過剰枝を送ることもある。非常にまれではあるが、脾動脈との吻合も見られる(Lenner, Läkaresällskapets Handlingar, 51. Bd., 1925)。