これらの筋膜は腸腰筋の前面を被っている。腰筋膜(Fascia psoica)は大腰筋とともに腰椎から起こる。腸骨筋膜(Fascia ilica)は外側で腸骨稜と、内側で弓状線と強固に癒合し、同様に腸恥隆起と、さらにこの隆起を越えたところでは股関節包の前面とも癒合している。
腸骨筋膜は、それが包む筋および大腿神経とともに鼡径靱帯の下を通って大腿の前面深部に入り込む。鼡径靱帯の下を通過する際、この筋膜の大部分が靱帯に強く付着するが、その内側部のみがこの癒合を免れている。この部分は腸恥隆起から遊離して鼡径靱帯まで伸びており、[腸骨筋膜の]裂孔間部(Pars interlacunaris fasciae ilicae)と呼ばれる。
この筋膜板によって、RK491(鼡径靱帯と浅鼡径輪) 、RK591(大腿輪の模型図) に示すように、鼡径靱帯の下にある隙間が2つの部分に分けられる。すなわち、外側の筋裂孔(Lacuna musculorum)と内側の血管裂孔(Lacuna vasorum)である。
筋裂孔は小転子に至るまで周囲が閉ざされており、この裂孔を腸腰筋および大腿神経が通過する。一方、血管裂孔は大腿動静脈およびリンパ管の通路となる。大腿動脈は最も外側に位置し、リンパ管は最も内側にあり、両者の間に大腿静脈が存在する。大腿動静脈は1つの結合組織性の鞘内に包まれているが、この鞘は動脈と静脈の間に多少とも明瞭な中隔(Septum)を有している。大腿動静脈は血管裂孔の外側大部分を占める。
これらと裂孔靱帯の凹んだ縁との間には、すでに上(α. 大腿輪中隔 Septum anuli femoralis )で述べた隙間がある。これが大腿輪(Anulus femoralis、内側大腿輪)であり、通常、大腿ヘルニアはここを通って外部に出現する。