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(図208(左肺の内側面:肺間膜は切断されている)、図209(右肺の内側面)、図210(肺根:前方から剖出したもの)、211(上下の気管支樹およびリンパ節)、図212(肺根:後方から剖出したもの)、213(呼吸細気管支から肺胞管への移行部の模型図)、214(ネコの肺胞壁における呼吸上皮と毛細血管の模型図))
成人の肺の形は明確に定義しづらい。これは、無傷の胸郭内で肺が示す形状が独自のものではなく、外部から強制されたものだからである。肺は胸膜嚢内で陰圧下に拡張しているが、胸膜嚢が開放されるか肺が取り出されると、すぐにその形状が変化し、当初の容積のおよそ3分の1に縮小する。
左右の肺は、縦に2分した円錐形で、底面を下方に向け、内側面はくぼんでいる。底面、すなわち肺底Basis pulmonisは、横隔面Facies diaphragmaticaとして横隔膜上に位置する。肺底は凹面を成し、そのカーブは各側で横隔膜の円蓋の突出形状に正確に一致する。肺底の外縁は凸湾を、内縁は凹湾を示し、その鋭い縁を下縁Margo diaphragmaticusと呼ぶ。肺の先端Spitzeは肺尖Apex pulmonisと呼ばれ、円形を呈する。これは左右とも第1肋骨の傾斜により、その縁を越えて下頸部の前部と側方部に突出し、後方は第1肋骨の頸、つまり脊柱で言えば第7頸椎の棘突起の高さまで達する。肺尖は第1肋骨の前部からおよそ4~5cm、鎖骨からは2~3cm上方に突出している。肺尖を越えて走る鎖骨下動脈により、鎖骨下動脈溝Sulcus a. subclaviaeという浅いくぼみが生じる。また、第1肋骨により第1肋骨圧痕Impressio costae primaeが形成される。
肋骨に面する肺の表面は肋骨面Facies costalisと呼ばれ、凸面を成し非常に広い。前方で内側面、すなわち縦隔面Facies mediastinalisに移行する部分が前縁Margo sternalisという鋭い縁を形成する。縦隔面はくぼんでおり、その大部分が心膜嚢の湾曲に一致する。心臓および心膜嚢によるくぼみを心圧痕Impressio cardiacaという(図208(左肺の内側面:肺間膜は切断されている)、図209(右肺の内側面))。これは左肺のほうが深くなっている。左肺の前縁には心圧痕に続く切れ込みがあり、これを心切痕Incisura cardiacaという。これを取り囲む稜線の下方の角が時に相当長くなり、左肺の小舌Lingula pulmonis sinistriと呼ばれる。内側面において、肺の中央よりやや上方で後面に比較的近い部分は、気管支と肺の脈管が出入りする場所であり、これらが肺の柄のような形態を成す。これにより肺根Radix pulmonis, Lungenwurzelが形成される(図210(肺根:前方から剖出したもの)、211(上下の気管支樹およびリンパ節)、図212(肺根:後方から剖出したもの)、213(呼吸細気管支から肺胞管への移行部の模型図)、214(ネコの肺胞壁における呼吸上皮と毛細血管の模型図))。肺根は縦隔肺ヒダPlica mediastinopulmonalisを形成して下方に伸び、前額面方向に伸びる三角形の板となって肺と縦隔をつなぐ。その出入り口は胸膜に覆われておらず、肺門Hilus pulmonisと呼ばれる。左肺は肋骨面と縦隔面が後方で移行する部分(図208(左肺の内側面:肺間膜は切断されている))に大動脈溝Sulcus aorticusという縦の溝を持ち、これは下行する胸大動脈の走行に一致する。右肺には(図209(右肺の内側面))同様の縦走するくぼみが2本あり、上部のものを上大静脈溝Sulcus venae cavae cranialis、下部のものを食道溝Sulcus oesophagicusという。